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【特殊詐欺】根絶至らず被害深刻化 警察危機感、対策矢継ぎ早

 2023年の特殊詐欺の認知件数が過去10年で最多となった。特殊詐欺が登場してから約20年。警察はさまざまな対策を講じてきたが、根絶には至っていない。広域強盗を指示したとされる特殊詐欺グループの事件では、東南アジアを中心とする海外拠点の存在が注目を浴びた。危機感を抱いた警察当局は、4月から新たな捜査体制を発足させるなど矢継ぎ早に対策を打っている。

海外拠点の特殊詐欺事件の摘発者数
海外拠点の特殊詐欺事件の摘発者数

 ▽毎日1・2億円
 「大変、深刻な情勢にある」。8日の定例記者会見で警察庁の露木康浩長官は切迫感をにじませた。
 特殊詐欺は、02年ごろに登場した「おれおれ詐欺」が発端とされる。警察は、誘拐や立てこもり事件の捜査に当たる捜査1課の特殊部隊を動員した国内拠点の「急襲」や、背後にいる暴力団情報の収集を強化するため、主な担当部署を知能犯部門から組織犯罪部門に移すなど、組織を挙げた対策を取ってきた。
 それでも23年の被害総額は、過去最多の566億円だった14年よりは少ないものの、441億2千万円となり2年連続の増加を許した。毎日1億2千万円が詐取されている計算だ。
 ▽体制一新
 23年1月には「ルフィ」などと名乗る指示役が率いた特殊詐欺グループが、フィリピンを拠点としていたことが発覚。詐欺グループが拠点を国内から海外へと移している実態も浮上した。
 警察庁は、水面下で東南アジア各国の捜査機関への協力要請を強化。フィリピンやカンボジア、タイ、ベトナムで特殊詐欺を働いたとして、23年は計69人の逮捕につなげた。海外を拠点とした特殊詐欺事件の摘発者数は19~21年は16~19人、22年は0人にとどまっていた。警察庁幹部は「他の国にも協力要請を広げていく」としている。
 国内の捜査体制も一新し、4月から都市部の7都府県警を中心に置く「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT)を発足させる。特殊詐欺グループは地方の高齢者をだまし、首都圏のATMで現金を下ろすのが典型。TAITは被害を認知した地方の警察から嘱託を受け、初動から容疑者割り出しなど捜査全体に関与する。
 ▽官民一体
 次々と現れる新手口に対しては「元を絶つための対策が大事だ」(警察庁幹部)として、官民一体の取り組みも進める。NTT東日本とNTT西日本は昨年5月から高齢者のいる世帯を対象に、かかってきた電話番号を表示する「ナンバーディスプレイ」と、番号非通知の着信を拒否する「ナンバーリクエスト」の両サービスの無料化に踏み切った。
 昨年7月以降に国際電話番号を悪用した詐欺電話が増えると、同10月には、海外からの着信を拒否できる民間サービスの利用を警察がチラシなどで呼びかけた。同11、12月は下落傾向に転じた。
 23年に急増したのはコンビニで電子マネーカードを被害者に購入させて架空代金を支払わせる手口。これにどう効果的な対策を打てるかが、当面の被害軽減の鍵となる。
 警察庁は、店頭での店員による声かけ以外にも、水際で被害を防ぐ仕組みができないか、コンビニ業界と協議を進めている。警察庁幹部は「増加する新手口を速やかに分析し、関係事業者に働きかけることが大事だ」と話した。

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