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【SNS虚偽情報】投稿収益目的の可能性も 対応制度化されず続く模索

 元日の能登半島地震で交流サイト(SNS)の虚偽情報に基づき消防や警察が実際に出動していた。収益目的で投稿された可能性も指摘されるが、こうした情報への対応は制度化されておらず、国や事業者らの模索が続く。一刻を争うときに、必要な人に必要な救助や支援をどう届けていくか―。役立つケースもある災害時のSNSの在り方に、改めて一石を投じることとなった。

虚偽情報の投稿から出動までのイメージ
虚偽情報の投稿から出動までのイメージ
災害時に広がる偽情報五つの類型
災害時に広がる偽情報五つの類型
虚偽情報の投稿から出動までのイメージ
災害時に広がる偽情報五つの類型

 ▽仕様変更
 「他人が余計な通報を繰り返し救助系統が麻痺します」「なぜ緊急時にあんな嘘がつけるのでしょうか」。X(旧ツイッター)に救助要請が続々と寄せられた1月1日の夕方以降、情報を拡散する人がいる一方で、批判的な投稿も相次いだ。
 SNSの虚偽情報は2011年の東日本大震災以降続いているとされ、16年の熊本地震の際は「動物園からライオンが放たれた」とのデマが拡散。大きな災害などのたびに課題として挙げられてきた。
 防災・危機管理サービスを提供する「スペクティ」(東京都千代田区)の村上建治郎代表は「今回の特徴は、目立ちたいというよりも、表示回数稼ぎが目的とみられ、海外からの投稿も多かった」と話す。背景には、Xが昨年夏ごろから表示回数(インプレッション)が多いと広告収入を稼げる仕様に変更したことがあると分析する。
 ▽ジレンマ
 消防の現場ではこうしたSNS情報をどのように捉えているのか。
 甚大な被害が出た石川県輪島市や珠洲市を管轄する奥能登広域圏事務組合消防本部には、発生から数日後、「家に挟まっている」という投稿を見た人からの通報があった。既にその住所に住んでいる人の無事が確認できていたため事実ではないと判断したが、担当者は「もしかしたら、という善意で通報してくれる人がいる。それを無視することはできない」と振り返った。
 ある消防関係者は「119番だと通報内容や声のトーンで判断できる場合があるが、文字情報だけだとそれが難しい」と明かす。総務省消防庁の担当者は「真実だったときに遅れが出ることのほうが問題。通報内容の真偽がわからない以上は出動して確認するのが一般的だ」とした上で「実際には線引きが難しい」とも語り、ジレンマがあることをにじませた。
 ▽マインド
 総務省は昨年、デジタル空間での情報流通に関する検討会を設置した。地震発生後の1月下旬、SNS上の虚偽情報に対処していくため、より専門的に議論する作業部会を立ち上げ、現状は制度化されていない災害時の対応などについて議論を進めている。
 実際と異なる被害投稿、不確かな救助要請…。事業者らでつくる団体が運営する「日本ファクトチェックセンター」は災害時の虚偽情報を5類型に分けて公表し、「本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがある」と注意を呼びかけた。情報の正確性をどう判別するかなど利用者の啓発に力を入れる。
 スペクティの村上氏は「過去の災害現場ではSNSの情報が救助につながった例もあり、投稿が役立つケースもある。ただ、当事者以外の第三者がSNSを基にして通報したり、情報を拡散したりすることは控えるべきで、利用者側のマインドが重要だ」と話した。

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