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【クマ指定管理鳥獣】被害防止と保全、両にらみ 求められる新たな取り組み

 死亡者を含む人的被害が相次いだことを受け、伊藤信太郎環境相は8日、クマを「指定管理鳥獣」に追加すると表明、都道府県の捕獲事業を支援する方向性を打ち出した。過去には過度な捕獲で個体数が激減した地域もあり、環境省の専門家検討会は被害を防ぎつつ、生息環境の改善などクマの「保全」の必要性も強調する両にらみの内容を提言した。政府や自治体には、これまでの制度の枠にとらわれない新たな取り組みが求められる。

クマによる人身被害件数の推移
クマによる人身被害件数の推移

 ▽危機感
 「人命への危機が差し迫った状況にある」。昨年11月、東北6県と北海道、新潟県による「北海道東北地方知事会」の会長を務める岩手県の達増拓也知事は、環境省を訪れクマを指定管理鳥獣に追加するよう強く求めた。この直後に環境相は事務方に検討を指示し、追加への流れが強まった。
 環境省などによると、日本にいるクマはヒグマとツキノワグマで34都道府県に分布。うち四国以外では分布域が拡大し、推定個体数も多くの地域で増加傾向を示しており、北海道のヒグマは30年間で2倍以上となった。
 関係者の間では、人の生活圏に近づいている懸念が持たれていたが、2023年度の被害増加により危機感は一気に強まった。山間地の集落だけでなく、秋田県などで市街地に出没した衝撃も大きい。被害の大きい地域の首長らにとっては、捕獲への財政支援などは喫緊の課題となっていた。
 ▽数万頭
 一方、増加しているとはいえクマの個体数は数万頭とされており、現状で指定管理鳥獣となっているニホンジカが約300万頭、イノシシが約70万頭であるのに対し圧倒的に少ない。九州のツキノワグマの絶滅は過度な捕獲が一因とされ、北海道でも急速な個体数減少を招いた時期もある。
 3回にわたる検討会ではこうした点が議論された。対策方針案には「ニホンジカ・イノシシとは異なる支援メニューを検討する必要」「過度の捕獲が行われないよう、目的を明確化する」と明記。「捕獲ありき」ではない対策を強調する姿勢を鮮明に示した。
 ▽モニタリング
 「クマ型の制度を創設するという気持ちで考えてほしい」。検討会では委員からこうした発言も出た。人的被害防止と、保全の両立を目的とする中で、具体的にどういった運用がなされていくかが注目される。重要視されるのは生息状況に関する調査の「モニタリング」だ。
 検討会の座長で東京農業大の山崎晃司教授は「モニタリングの重要性はこれまでも言われてきたが、人材も予算も乏しくあまり実現していないのが現状だ」と指摘する。
 モニタリングによる科学的データの収集が進まず、捕獲に偏った対策となることへの懸念もある。山崎教授は「自治体でどういった運用がなされるか、見守る必要がある」と述べた。

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