テーマ : 読み応えあり

【災害時の行政支援】官民の専門チーム新設を 被災自治体の負荷減必要 ピースウィンズ医師 稲葉基高

 能登半島地震は多くの人々の平和な日常を一変させた。この大災害の中で、医師としての私の役割は、ただ救命するだけではなく、災害医療の体制そのものを見つめ直すことにもあった。被災地にいち早く到着した医療支援組織のリーダーとして石川県珠洲市での支援を通じて、多くの教訓を得た。

ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏
ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏
ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏
ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏
ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏
ピースウィンズ・ジャパンの医師、稲葉基高氏

 珠洲市では、多くの支援組織と被災自治体をつなぐ「保健医療福祉調整本部」の立ち上げや避難所の衛生管理、臨時診療所の設置、被災者の訪問診療など、幅広い医療活動を展開した。
 特に印象深いのは、124時間倒壊家屋の下に閉じ込められた高齢女性を救出した経験だ。警察、消防、医療チームが一丸となったこの救出は、平時の訓練と多職種間の緊密な協力があったからこそ可能だった。
 半島という地理的な特性のため、被災医療機関からの患者搬送には航空機の活用が重要だった。ドクターヘリや自衛隊ヘリに加え、非政府組織(NGO)が運用する民間ヘリが連携できたのは、例年内閣府が主催する訓練においてシミュレーションを行っていたことが鍵だった。
 今回の災害対応は、地形や元日発災という時期的な問題など、いくつかの点で非常に不利な状況からスタートした。それでも過去の災害対応の経験から、翌日には、われわれや自衛隊を含む多くの支援組織が被災地入りし、必要と考えられるものを国や県が予測して送り出す「プッシュ型支援」が実施された。
 これらの支援は一定の成果を上げたものの、「ラストワンマイル」つまり最終的な現場に届く過程には課題が残った。被災自治体が疲弊する中で、支援を適切に配分するマンパワーやシステムの不足が明らかになった。また災害直後に急ごしらえのITシステムを効果的に活用することは困難だと改めて感じた。
 これらの課題に対応するため、行政を支える専門チーム「DGAT(Disaster Government Assistance Team)」の設立を提案したい。
 被災病院などで医療を担う災害派遣医療チーム(DMAT)と同様、DGATは災害時の行政支援を専門とし、災害対策本部の立ち上げ、人員配置、支援物資の配布システムの運用を担う。官民から幅広く人材を募り、普段はそれぞれの職場で働きながら、災害が起きれば現地に行き、国や県との間に入って被災自治体を支援するイメージだ。
 災害時にはさまざまな団体が現地に入るが、パニック状態にある自治体がどの団体を頼ったらいいのか分からない場合もある。DGATが一元的に自治体職員を手助けすることで、自治体の負荷を軽減し、より効率的で迅速な対応を実現できる。
 DGATが災害時に有効なITツールを用いて平素から訓練を受けることで、被災自治体でも、そうしたツールの活用が混乱なく可能になると考える。
   ×   ×
 いなば・もとたか 1979年、岡山県出身。長崎大卒。外科・救急専門医。病院勤務を経て2018年より認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」所属。同団体が運営する空飛ぶ捜索医療団「ARROWS」プロジェクトリーダー。

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞