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地方公務員のなり手求む! 民間に対抗、進む試験改革 AI活用、前倒しも

 各地の自治体で職員採用試験の受験者の減少を食い止めようと、試験の負担を軽減する動きが広がっている。総務省によると、全国の自治体が2022年度に実施した採用試験の競争率は5・2倍と過去30年間で最低だった。民間企業に優秀な人材を奪われまいと、ユニークな取り組みや試験の前倒しも進む。

職員採用試験でのAI活用
職員採用試験でのAI活用
自治体職員の採用試験の推移
自治体職員の採用試験の推移
職員採用試験でのAI活用
自治体職員の採用試験の推移

 長野県塩尻市は21年度の採用試験から、1時間15分で250問以上をこなすマークシート式の適性検査を廃止した。その代わり、1分間の自己PR動画の提出を求め、人工知能(AI)で解析して仕事への適性を判断する。実証実験段階の21年度は動画を面接資料として活用するにとどめ、22年度から本格導入した。
 入庁2年目の中川遼祐さん(25)は「マークシートで変な結果が出たらどうしようという心理的な負担がなくなった。動画でPRというのも、入庁したいきっかけの一つになった」と振り返る。市の担当者は「民間企業との競合はもちろん、他の自治体との人材獲得競争という点からも、珍しい取り組みでアピールする必要がある」と話す。
 奈良県生駒市は23年度の採用試験から、事務職は3回の面接を2回にした。1回分の人物評価の機会を補うため、1次試験のウェブテスト「SPI」の段階で、志望動機などが書かれた面接用の資料も合わせて評価する。担当者は「志望度が低いにもかかわらずウェブテストの順位のみで2段階目に進むケースを防ぐことができる。面接回数を減らすデメリットは軽減できている」。
 政府は企業の採用活動に関し、面接などの選考は6月、内定は10月に解禁するルールを定めている。ただ前倒しが進み形骸化しているのが実情で、試験日が6月下旬~9月に集中しがちな自治体は後手に回るケースが多い。
 こうした事情を背景に、徳島県美馬市は25年度採用予定者の試験の募集を23年12月に開始し、今月1日から試験を始めた。市によると、いずれも自治体の中で一番早いとみられ、3月末には合格発表したい意向だ。
 市の人事担当者は「近年は学生優位の『売り手市場』のため、東京などの都会に進学した県出身の学生がUターンせず、そのまま都会で就職しているのではないか。地方の自治体ほど職員のなり手が少なくなっている」と危機感を示す。
 独協大の大谷基道教授(行政学)は近年の自治体の採用試験について「受験者を増やすため民間企業に近づけようという傾向が強い」と指摘。その上で「部署によって求める人材が違う。住民と接する業務であれば面接重視、法律を扱う部署では法律の筆記試験重視といったように、求める人材に応じて手法を使い分けるべきだ」と話す。

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