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ソウルよりも平壌の方が近い韓国の島、その北方の海に大量の砲弾が撃ち込まれた 夜間は「中国の海」に?生活への影響は、住民の思いは【ルポ・韓国最前線の島】

 韓国の空の玄関、仁川国際空港のある仁川の港から船で4時間の沖に、韓国最北西のペンニョン島がある。ソウルよりも北朝鮮の首都平壌が近い。十数キロ先に望む北朝鮮から1月5日、大量の砲弾が北方の海上に撃ち込まれ、韓国軍も対抗して砲撃を実施した。南北の軍事的緊張が高まる中、最前線の住民の暮らしぶりはどのようなものなのか。どんな思いで日々を過ごしているのか。記者とフォトグラファーが1月17、18日、島を訪れた。(共同通信ソウル支局 富樫顕大)

展望台から見た白☆(令の右に羽の旧字体)島の市街地=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
展望台から見た白☆(令の右に羽の旧字体)島の市街地=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
北方限界線(NLL)の地図
北方限界線(NLL)の地図
仁川から白☆(令の右に羽の旧字体)島へ行く船内で表示される地図。青線が航路で、NLLの近くとなる直線ではなく、南側を大回りする=1月17日(撮影・富樫顕大、共同)
仁川から白☆(令の右に羽の旧字体)島へ行く船内で表示される地図。青線が航路で、NLLの近くとなる直線ではなく、南側を大回りする=1月17日(撮影・富樫顕大、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島の自治会館で取材に応じる女性ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島の自治会館で取材に応じる女性ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
白☆(令の右に羽の旧字体)島の待避所=1月17日(撮影・宋慶碩、共同)
白☆(令の右に羽の旧字体)島の待避所=1月17日(撮影・宋慶碩、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島内を歩く海兵隊員ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島内を歩く海兵隊員ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
北朝鮮側の侵入を防ぐため海に設置された障害物=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)
北朝鮮側の侵入を防ぐため海に設置された障害物=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)
砲撃時の状況を語る漁師の朴唱馥さん=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)
砲撃時の状況を語る漁師の朴唱馥さん=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)
展望台から見た白☆(令の右に羽の旧字体)島の市街地=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
北方限界線(NLL)の地図
仁川から白☆(令の右に羽の旧字体)島へ行く船内で表示される地図。青線が航路で、NLLの近くとなる直線ではなく、南側を大回りする=1月17日(撮影・富樫顕大、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島の自治会館で取材に応じる女性ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
白☆(令の右に羽の旧字体)島の待避所=1月17日(撮影・宋慶碩、共同)
韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島内を歩く海兵隊員ら=1月18日(撮影・宋慶碩、共同)
北朝鮮側の侵入を防ぐため海に設置された障害物=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)
砲撃時の状況を語る漁師の朴唱馥さん=1月18日、韓国・白☆(令の右に羽の旧字体)島(撮影・宋慶碩、共同)

 ▽待避令
 仁川港の旅客ターミナルを朝8時半に出発した。この航路は、強風などの悪天候で運航がたびたび中止になる。雪が降っていたが、幸い大きな遅延もなくペンニョン島に着いた。
 島の中央部の集落にある自治会館へ取材に行ってみると、高齢女性らが集まっていた。人口約5千人のペンニョン島は、農業従事者が約3割を占める。女性らは夏は農業をしているが、2月の旧正月までは休みの時期なのだという。
 5日の砲撃時、自治体は「北朝鮮の砲撃を受け、わが軍は今日海上砲撃を予定しています。住民の皆さまは万一の事態に留意してくだい」と、北朝鮮による攻撃などに備えて設置されている島内各地の地下の退避所への避難を指示した。自治会館で会った女性らのほとんどが避難したというが「私は足が悪いから、階段を下りないといけない退避所には行けず、不安だけど家にいた」と打ち明ける女性もいた。
 ▽家で一人
 女性らは「戦争が起きるのではないかと不安で最近はニュースも見られない」などと口をそろえた。「銃や砲撃の音が怖い。平和になり北と往来できるようになってほしい」と話す80代女性に、周囲がうなずいた。
 北朝鮮は多様なミサイル発射実験を繰り返している。「ミサイルが撃ち込まれたら退避所でも大丈夫なのだろうか」とつぶやく女性もいた。
 ペンニョン島は、1950~53年の朝鮮戦争の際、すぐ先の対岸の北朝鮮から避難してきた住民らもいるという。韓国では「名節」である旧正月や旧盆の際に親戚一同が集まる。60代の女性は「私の姉の夫は北から1人で避難してきた。名節の時、心が痛いから普段は好きな酒も飲まず、家で一人でじっとしている」と話した。
 ▽地元経済への影響
 自治会館を出た後、近くのスーパーへ取材に行った。経営する呂東竜(ヨドンヨン)さん(55)は精肉を包装しながら取材に応じてくれた。島の大事な消費者である軍人が「警戒のためかあまり外出しない。売り上げが減った」とこぼした。冬は島外からの観光客がもともと少なくなる時期だが、緊張の影響でさらに減っているという。島内各地の飲食店は、観光オフシーズンであることもあり、シャッターを閉めている店もあった。
 漁師の朴唱馥(パクチャンボク)さん(56)は1月5日、砲撃があったため、漁に向かっていたところを引き返した。「生業に支障が出ている。軍事的緊張は話し合いで解決してほしい」と訴えた。
 ▽南北対立と中国船
 ペンニョン島のすぐ北側は、韓国が海上境界線と位置付ける北方限界線(NLL)だ。朝鮮戦争の休戦協定が1953年に締結された際、海上境界線は確定されず、北朝鮮は1999年にNLL南方に独自の境界線を宣言した。仁川とペンニョン島を往復する船も、NLL直近を避け、南を大回りする航路を取る。島民が漁をできる場所は限られている。
 韓国の警備艇がNLL北側へ行けない隙を突く、中国漁船によるNLL周辺の不法操業がたびたび摘発される。朴さんは「ここは昼は『韓国の海』だが、われわれが漁を禁じられている夜間は『中国の海』になっている」とぼやく。朴さんは南北が協議し、広い範囲で漁ができるようになることを望んでいる。
 ▽失われた歯止め
 韓国の尹錫悦政権は昨年11月、北朝鮮による偵察衛星打ち上げへの対抗措置として、2018年に文在寅前政権が北朝鮮と結んだ、境界周辺での軍事行為を禁じた合意の効力を一部停止した。北朝鮮は反発し、「合意に縛られない」と宣言した。緊張を緩和する歯止めが、事実上なくなった。
 米韓軍は軍事境界線に近い京畿道抱川で、年末年始の定例的な機動砲撃訓練を例年より拡大して実施した。北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は、1月5日の砲撃について「新年早々、大規模な訓練をする大韓民国の軍事行動に対する当然の対応措置」だと主張した。北朝鮮は、ペンニョン島東方の延坪島付近では5日から3日連続で砲撃をした。韓国軍は8日、2018年の合意で設けた海上緩衝区域は「もはや存在しない」として、区域で訓練を再開すると発表した。
 ▽力対力
 ペンニョン島は緩衝区域内だった。精米所を経営する趙在欽(チョジェフム)さん(65)は区域設定がそもそも「過ちだった」とし、中高生も軍事訓練をするべきだと主張した。5日の砲撃で韓国側が北朝鮮側の2倍の約400発を砲撃したことを「良い対応だ」とたたえた。
 一方、会社員の李扈真(イホジン)さん(37)は「対決はうんざりだ。この状況が変わってほしい」と話した。韓国も「軍事的に『力』を前面に出して北を刺激するのは望ましくない」と悩ましそうに語った。
 ▽「もはや同族では…」
 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は昨年末の党重要会議で「有事には核戦力を含む全ての手段を動員し、南朝鮮(韓国)全領土を平定する」と主張した。1月15日の最高人民会議(国会)での演説では、韓国を「不変の主敵」と憲法にまで明記すべきだと指示した。
 金氏は「北南関係はもはや同族関係、同質関係ではなくなった」とも述べているが、ペンニョン島のガソリンスタンドで働く40代の女性は「(南北は)仲良くしてほしい。同じ民族なのだから」と微笑した。

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