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【AI どう向き合う―規制】技術者と対話を 世界の開発競争に遅れも 慶応大教授 栗原聡

 政府がまとめた生成人工知能(AI)に関するガイドライン(指針)案を読むと、AIの開発を進めつつ、問題があれば関係者が共有して解決していくという内容で、良い形にまとまっている。生成AIを規制する法制度をいきなり導入し、大きな可能性を持つAI研究開発にブレーキをかけることには抵抗感がある。

慶応大の栗原聡教授
慶応大の栗原聡教授

 生成AIが登場してから、マイナス面や問題点に注目が集まりがちだ。しかし、技術者は社会で暮らす人々をおとしめるためにテクノロジーを作っていない。「人々はどう感じるだろうか」という点を意識しながら開発していることは、なかなか世の中に伝わらない。
 どういった規制やルールが良いのかを考えるときは法律や法哲学の有識者や、テクノロジーに精通した生成AIの技術者といった多様な専門家が集まり、表層的な議論ではなく対話を重ねていくべきだ。現在の技術を前提に規制やルールを作っても、技術が進化すれば古くなる。日本では最近そういう動きが活発化しているようだが、まだまだ足りない。
 また、クリエーターが生成AIを使って作品を自由に作りづらくなっているという話を聞く。盗作を疑われる可能性があるからだ。クリエーターは作業の記録を取るなど、盗作でないと証明するための努力をするとは思うが、そうした時に保険になる制度があると良いのではないだろうか。作品に対し何らかの保証を与えたり、免責制度を設けたりするやり方はある。
 海外のIT大手に比べ、資金力の劣る日本の企業や研究機関は生成AI開発に後れを取っているが、人の判断を高度に支援する自律汎用型AIが誕生した時、日本にチャンスが訪れるはずだ。日本ではアニメ「ドラえもん」や「鉄腕アトム」に見られるように、人間とテクノロジーの共存に抵抗感があまりない。欧米と違って、日本には自ら考えて動くAIを自然に受け入れる土壌がある。ドラえもんのようなAIを開発できたと想定すると、日本は欧米より速く普及し、先進国の先行事例になり得るのではないか。
 危険性にばかり目を向けていると、世界的な開発競争の中で取り残されるかもしれない。生成AIと同じように人類が完全に制御できるかどうか不安が残る原子力やクローン技術に対して、人類はある一定の線を引いて踏み込まないようにしてきた歴史がある。
 もちろん原子力などと違い、誰もが使えるようになったAIは専門知識がなくても使えてしまう。その点はリテラシー教育などで利用者にモラルを求めると同時に、技術者も不正利用されないような努力をしていくべきだ。常に便利なものを追求するのが人間だ。その流れの中、生み出された生成AIをどのように利活用していくのか、今後、人類はAIとどう関わっていくのか、後戻りできない新たな段階に入ったことを認識する必要がある。(談)
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 くりはら・さとし 1965年横浜市生まれ。慶応大大学院修了。人工知能学会副会長。著書に「AI兵器と未来社会キラーロボットの正体」。

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