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【AI どう向き合う―規制】民主社会に資するルールを G7規範、企業の責務 マイルストーン最高経営責任者 トマス・ジェンセン

 キヤノン傘下のビデオ管理ソフト大手マイルストーンシステムズ(本社デンマーク)は1月、人工知能(AI)開発を巡る先進7カ国(G7)の行動規範を採用し、実行に移すと発表した。

マイルストーン最高経営責任者のトマス・ジェンセン氏
マイルストーン最高経営責任者のトマス・ジェンセン氏

 規範は昨年、岸田文雄首相らG7首脳の間で合意された。「安全、安心、信頼できるAI」の普及に向け、高度なAIの開発者に参加を呼びかけており、われわれは第1陣の企業となった。
 急速に発展するAIを巡り、国際社会は適切な運用に向けた取り組みを重ねている。バイデン米大統領はAIのリスクを管理する大統領令を出し、欧州連合(EU)は規制法案に合意した。
 AIに関するルールは利益よりも「責任ある技術」に重点を置くべきだ。技術は人類に奉仕すべきであり、その逆ではない。高度AIを世に送り出す企業は製品の開発や販売に責任がある。
 G7は最も進んだ民主国家の集まりである。指針を貫く精神の一つは民主主義や法の支配を推進することにある。マイルストーンの企業理念と通じる点があり、規範の受け入れを決めた。
 その背景には、四半世紀に及ぶわれわれの取り組みがある。マイルストーンの創設者は企業倫理に加え、自分たちの事業が市民社会にどんな利益をもたらすのかという点に腐心した。
 その理念は2017年に具体化する。われわれが発起人の一人となり「技術は人間の上にあるのではなく、民主的制度によって統治すべきだ」と呼びかける共同声明を発表したのである。
 この声明は「コペンハーゲン書簡」と呼ばれ、150人を超す起業家や作家、思想家らが署名した。IT企業が社会に負うべき責任の方向性を示す最初の国際的宣言の一つだった。
 5年後の22年には新たな一歩を踏み出し、国連の定めた枠組み「ビジネスと人権に関する指導原則」にのっとって事業展開することにした。G7規範への参加も、これらの延長線上にある。
 とはいえ「安全、安心、信頼できるAI」の普及には多くの課題が横たわる。その一つは、AI技術に潜む「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)」を排除することである。
 例えば顔認証だ。多くの既存システムは色黒の人の顔を識別するのに問題がある。理想的な照明条件でなければ、その問題点がさらに顕著になる。偏見と相まって、有色人種が誤認逮捕されるケースが各国で相次いでいる。
 AI技術は、介護など高齢者支援や医療従事者不足といった大問題の解決に寄与する一方で、使い方を誤れば社会的信用を失う。「責任ある技術」こそ、企業活動の「事業免許」だ。
 先端技術はもろ刃の剣である。人間と同じように100%の精度は期待できない。だからこそルールづくりが大切なのだ。AIの明日は、今日何をするかによって決定される。(談)
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 THOMAS・JENSEN 1973年、デンマーク生まれ。オールボー大修士。長年、IT業界に身を置き、2020年から現職。

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