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【識者コラム】虚構の派閥解消論 カルテル行為を絶て 中北浩爾

 自民党の派閥による政治資金パーティーの裏金化問題が、思わぬ展開をみせている。

中北浩爾さん
中北浩爾さん

 通常国会を目前に控え、東京地検特捜部が安倍派の2議員のほか、安倍派、二階派、岸田派の現・元会計責任者らを政治資金規正法違反の罪で起訴した。安倍派の塩谷立座長や松野博一前官房長官ら「5人組」が起訴を免れる一方、岸田派の関係者が立件され、大きな衝撃を与えた。
 追い込まれた岸田文雄首相は、自らが率いる岸田派の解散を表明、二階派、安倍派など解散のドミノ倒しに発展する。党に設置された総裁直属機関の政治刷新本部が駆け足で党改革に向けた「中間とりまとめ」を策定し、「政治資金の透明性の徹底」と並び「派閥の解消と党のガバナンス強化」を打ち出した。
 ▽条件反射
 確かに、今回の「政治とカネ」の問題は、安倍派など派閥を巡って発生している。だが、すべての派閥がパーティー券を裏金化していたわけではない以上、問題の本質は「政治とカネ」であって、派閥ではない。その意味で「中間とりまとめ」は診断を誤っている。
 原因は、内閣支持率の低迷にあえぐ岸田首相が、自派の元会計責任者の起訴で追い詰められ、派閥を解消すれば有権者にアピールできると判断したからであろう。党内でも菅義偉前首相らが派閥解消を唱え、攻勢をかけていた。条件反射的な派閥解消の決断は、「増税メガネ」批判を受けて所得税減税に舵を切ったのと同じだ。
 刷新本部の「中間とりまとめ」は、診断だけでなく、処方箋も誤っている。まず派閥から脱却して本来の政策集団に生まれ変わることを提唱するものの、派閥は、そもそも政策集団ではない。派閥が政策を論じたり、政策提言を発表したりすることもなきにしもあらずだが、基本的には領袖を中心とする人的な集団である。言ってみれば、議員の互助組織だ。
 自民党の候補者は、自らの力で選挙を勝ち上がってくることを求められる。党から公認を与えられ、一定の資金やサポートも提供されるが、決して十分ではない。それゆえ候補者は自前で個人後援会を作り、資金を集め、選挙を戦う。党任せではないからこそ、強さと活力が生まれる。
 しかし、個人の力だけでは限界がある。そこで、議員の互助組織たる派閥の支援が大切になる。選挙応援に来てもらったり、支援者を紹介してもらったりと助け合う。自民党の綱領は、まず自助、次に共助、最後に公助を掲げる。党が公助であるとすると、派閥は共助なのだ。
 ▽党肥大化への懸念
 そうした派閥を解消して、政策集団に純化させた場合、党が果たすべき役割が肥大化してしまう。それは可能なのか。かえって弊害が生じないのか。自民党のガバナンスが機能不全に陥る懸念が払拭できない。
 「中間とりまとめ」は、政策集団にカネと人事から完全に決別することを求める。だが、最大の人事は、総裁の選出であり、それは選挙によって行われる。そこでは、多数派形成が目指され、党内グループが必然的に誕生する。選ばれた総裁は、自らの支持グループの意向を踏まえ幹事長などの人事を決める。
 総裁選は繰り返しのゲームであるから、党内グループを存続させ、強化しようという思惑が働く。そうなると、カネと無縁ではありえない。結束力を強めるため、飲食の場を設けたり、合宿形式の研修会を開いたりすれば、金銭を要する。議員にとって死活問題の選挙で応援する場合も、費用がかかる。金額の多寡は別として、カネから完全に決別することは、常識的に言って難しい。
 派閥に問題があるとすれば、それが過剰に制度化され、カルテルを形成していることではないか。議員は派閥に棲み分けされ、政局の節目では各派事務総長が意見交換する。党との関係では、派閥は副幹事長など「副」のポストに代表を送り込み、副大臣や政務官などの人事を差配する。本質的な問題は、こうしたカルテル行為が党内の風通しを悪くしていることだろう。
 ならば、派閥をなくすのではなく、連座制の導入などの政治資金制度改革を行うのと同時に、カルテル行為を絶つ改革が肝心だ。安易に派閥解消に拍手するのは、「古い自民党をぶっ壊す」というスローガンに熱狂した二の舞いでしかない。(中央大教授)
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 なかきた・こうじ 1968年、三重県生まれ。東京大大学院中退。立教大教授、一橋大大学院教授などを経て2023年4月から中央大教授。著書に「自民党政治の変容」「自公政権とは何か―『連立』にみる強さの正体」「日本共産党 『革命』を夢見た100年」など。

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