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【23年雇用統計】年収の壁対策効果見通せず 働き手不足、回復の重し

 新型コロナウイルス禍からの回復に伴って社会経済活動が本格化し、2023年の雇用情勢は緩やかに持ち直した。ただ、企業の働き手不足と物価高騰が重しとなり、改善ペースは鈍い。政府は労働者確保の一助として、被扶養者のパート従業員らが働く時間を抑える「年収の壁」への対策を始めたが、実効性を疑問視する声も出ており、効果は見通せない。

取材に応じるスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長=1月17日、東京都練馬区
取材に応じるスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長=1月17日、東京都練馬区
野菜の袋詰めや下処理をするスーパー「アキダイ」の従業員ら=1月17日、東京都練馬区
野菜の袋詰めや下処理をするスーパー「アキダイ」の従業員ら=1月17日、東京都練馬区
店頭で接客するスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長(右)=1月17日、東京都練馬区
店頭で接客するスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長(右)=1月17日、東京都練馬区
取材に応じるスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長=1月17日、東京都練馬区
野菜の袋詰めや下処理をするスーパー「アキダイ」の従業員ら=1月17日、東京都練馬区
店頭で接客するスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長(右)=1月17日、東京都練馬区

 ▽慢性化
 「コロナ禍で飲食業などを離職して集まった働き手が、また元の仕事に戻ってしまった」。東京都内を中心にスーパー「アキダイ」を経営する秋葉弘道社長(55)はため息をつく。従業員約200人のうち、半数をパートが占める。
 「店頭に立つのは肉体労働で、接客が好きじゃないと定着しない」(秋葉社長)ため、近年は人繰りの厳しさが慢性化。ファクスで行っていた商品の発注作業をタブレット端末に切り替え、少しでも人手不足を補おうと工夫する。
 ▽圧迫
 政府は23年10月、配偶者に扶養されるパートらが社会保険料の負担を避けるために働く時間を抑える年収の壁への当面の対策として、従業員の保険料を肩代わりする企業に補助金を支給するなどの支援を始めた。
 東京商工リサーチによると、人手不足に関連する23年の倒産は158件で前年の約2・5倍へ急増。サービス業のほか、トラック運転手の残業規制強化に伴う物流危機が懸念される運輸業、コロナ禍前から慢性的な人手不足に陥っていた建設業などが押し上げ、13年の調査開始以降最多となった。秋葉社長は「政府対策によって働いてくれる時間が増えるのはいいが、時限措置が終わって急に人手が減ってしまったら余計大変なことになる」と先行きを懸念する。
 長引く物価高騰も人手不足を加速させる。厚生労働省によると、宿泊・飲食サービス業や建設業などさまざまな業種から「物価高で収益が圧迫され、人手が足りなくても新規求人が出せない」との声が上がっている。
 ▽ケア労働
 パートで働くのは育児や介護など家庭内のケア労働を引き受ける女性が多く、大幅に労働時間を延ばすのが難しい事情もある。都内のパン屋に勤める岡田香代子さん(42)は、年収の壁を意識しながら週3~4日働いている。幼稚園児から中学生まで3人の子どもを育てているため、行事などでやむを得ず仕事を休む場合も多い。
 岡田さんは「空いている時間の範囲内で働きたい」と話しており、家庭内労働が女性に偏りがちな現状にメスを入れない限りは根本的な解決が望めない実態が浮かぶ。
 厚労省は年収の壁への抜本的な対応について、25年に予定する年金制度改正に向け議論しているが、働き方の多様化に合わせたきめ細かな制度設計が求められ、難航が予想される。

いい茶0

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