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【男児やけど死振り返り】災害時医療、困難浮き彫り 犠牲5歳の母、整理つかず

 能登半島地震では石川県志賀町で5歳の中川叶逢ちゃんも犠牲になった。揺れて倒れたやかんの湯でやけどを負い、入院を断られた末に亡くなった。抱っこをねだられても、痛がるため5日間抱くことがかなわなかった母は気持ちの整理がつかないまま。専門家らは平時と異なる災害時医療の難しさが浮き彫りになったと指摘した上で、入院していれば助かった可能性があったと振り返る。

中川叶逢ちゃんのやけどの経緯
中川叶逢ちゃんのやけどの経緯

 ▽「軽傷ではない」
 「少しは落ち着いたけれど…。お墓にはまだ入れたくない。そばにいたい」。叶逢ちゃんが亡くなって間もなく1カ月となる1月下旬、母の岬さん(26)はこう心境を漏らした。
 元日午後4時ごろ、仕事を終え親族の家にいる叶逢ちゃんの元に駆け付けた直後、震度7の揺れに襲われた。石油ストーブの上に置かれたやかんの熱湯が叶逢ちゃんの尻にかかった。
 道がひび割れ、移動に苦労する中、こぎ着けた初診では「軽傷ではないが重傷でもない」と入院を断られた。「かゆい。痛い」と泣き続けた叶逢ちゃんは3日朝、41度を発熱。翌4日朝、金沢医科大病院に向かうも発熱者は部屋に入れないと言われ待機が続く。診察直前に呼吸が止まり、5日に亡くなった。岬さんによると、医師からは原因不明と言われたが、死亡診断書には「心不全」と書いてあったという。
 ▽断水で冷やせず
 「やけどはまず流水で冷やす。患部全体にかけ続けて」と訴えるのは巣鴨千石皮ふ科(東京)の小西真絢院長。体が小さく皮膚が薄い子どもは、大人と比べて重症化しやすいという。だが岬さんの話では、地震の時にいた親族宅は断水し、患部を冷やすための水は絶たれていた。近所の人から「水が出る」と言われ赴くと、蛇口ではなく壁からちょろちょろと水が出ているのみだった。
 小西院長は新型コロナウイルス禍以降、発熱者の診察を後回しにせざるを得ない傾向があるとも指摘する。一方で、叶逢ちゃんの発熱は「やけどに伴う二次感染が一因とも考えられる」とし、診察までに時間がかかったり、入院できなかったりしたことで結果が変わった可能性も示唆した。
 ▽順位付けの葛藤
 日本赤十字社富山県支部の災害医療コーディネーターとして石川県に派遣された橋本浩医師は1月後半になっても現場は混乱を極めていたと証言する。叶逢ちゃんに関し、通常であれば入院措置が取られ助かったかもしれないと分析するが「平時には決してしない患者の順位付けをしなければならないのが災害医療だ」と強調。震災直後の厳しい環境下で全員を助けるのは困難だと医療者の葛藤をにじませた。
 叶逢ちゃんの治療に当たった金沢医科大病院の医師は取材に「医療ミスはなかったと考えているが、対応が本当に正しかったかどうかは時間をかけて検証する」と回答。28日時点で、岬さんに同病院からの連絡はないという。

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