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海底に沈む犠牲者183人 遺骨、日の当たる場所に 「長生炭鉱」事故82年

 太平洋戦争中の1942年、瀬戸内海に面した山口県宇部市の「長生炭鉱」で、労働者183人が犠牲になる海底坑道の水没事故が起きた。2月3日で事故から82年だが、遺骨は今も海の底だ。数十年にわたって追悼と調査を続ける地元の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」は「遺族は高齢で、残された時間は少ない。遺骨を日の当たる場所に出してほしい」と国に求めている。

2023年12月、国との意見交換会に参加した韓国遺族会の楊玄会長(中央)、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表(その右)ら=東京都内(刻む会提供)
2023年12月、国との意見交換会に参加した韓国遺族会の楊玄会長(中央)、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表(その右)ら=東京都内(刻む会提供)
遺骨調査を訴える「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表=23日、山口市
遺骨調査を訴える「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表=23日、山口市
犠牲者の名前が刻まれた追悼碑=24日、山口県宇部市
犠牲者の名前が刻まれた追悼碑=24日、山口県宇部市
海面から突き出た「ピーヤ」と呼ばれる2本の巨大なコンクリート排気筒=24日、山口県宇部市
海面から突き出た「ピーヤ」と呼ばれる2本の巨大なコンクリート排気筒=24日、山口県宇部市
現場近くにある「長生炭鉱追悼ひろば」=24日、山口県宇部市
現場近くにある「長生炭鉱追悼ひろば」=24日、山口県宇部市
山口県宇部市・長生炭鉱跡地
山口県宇部市・長生炭鉱跡地
2023年12月、国との意見交換会に参加した韓国遺族会の楊玄会長(中央)、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表(その右)ら=東京都内(刻む会提供)
遺骨調査を訴える「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の井上洋子共同代表=23日、山口市
犠牲者の名前が刻まれた追悼碑=24日、山口県宇部市
海面から突き出た「ピーヤ」と呼ばれる2本の巨大なコンクリート排気筒=24日、山口県宇部市
現場近くにある「長生炭鉱追悼ひろば」=24日、山口県宇部市
山口県宇部市・長生炭鉱跡地

 現場の海面には、今も「ピーヤ」と呼ばれる2本の巨大なコンクリート排気筒が突き出ている。市によると、事故は坑口から約1キロの沖合で発生。海水が流れ込み、戦時動員されるなどした朝鮮人136人と、広島や沖縄出身などの日本人47人が死亡した。
 市内の西光寺には犠牲者の位牌があるが、遺骨はない。刻む会は2013年、現場近くに犠牲者名を刻んだ追悼碑を建立。今年も2月3日に毎年恒例の追悼式を開く。
 昨年12月8日、初めて韓国の遺族も参加し、刻む会と国との意見交換会が国会内で開かれた。おじの楊壬守さんを亡くした韓国遺族会の楊玄会長は「日本政府からの謝罪と遺骨発掘を強く要求してきたが、80年が過ぎた今も何の返事もない。悔しく、もどかしい」と声を振り絞った。
 刻む会は国に対し、陸地にある坑口を掘り、水中ドローンで調査することが可能だとして、現地視察を要望した。厚生労働省人道調査室の中村正子室長は「遺骨の埋没位置が分からないため困難」と返答。遺骨調査の対象は、寺院などにある「見える遺骨」だけだとして、海底に沈む遺骨は対象外との理由だった。
 朝鮮人徴用工の遺骨問題は、04年の日韓首脳会談で、当時の盧武鉉大統領が小泉純一郎首相に解決を要請し、小泉氏が「何ができるか検討したい」と応じたことに始まる。06年から厚労省などは各地で実地調査を開始。最後となった16年までに計237回調査したが、遺骨返還には結び付いていない。
 刻む会の井上洋子共同代表(73)は「遺骨の収集や返還は、植民地支配の反省として日本政府がなすべきことだが、何もやっていない。命の尊厳はどうなるのか」と話し、遺族が存命のうちの解決を求める。
 朝鮮半島出身者の遺骨問題に詳しい福岡教育大の小林知子教授は「政府は太平洋に沈む日本人戦没者の遺骨収集は進めている。長生炭鉱では見える遺骨しか調査しないと基準を設けるのは妥当性に欠ける」と指摘。「国の予算で調査することが日韓関係を切り開く鍵になる」と強調した。

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