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【離婚後共同親権】議論3年、埋まらぬ隔たり 家族の在り方、転換点に

 離婚後の共同親権を可能にする法制審議会の要綱案が30日、まとまった。子どもと離れて暮らす親が共同親権を求める切実な声と、ドメスティックバイオレンス(DV)が続く恐れを抱く被害当事者らの根深い懸念がぶつかった部会。3年近く議論を尽くしても、隔たりは埋まらなかった。民法改正案が提出され、成立すれば離婚後の家族の在り方は大きな転換点を迎えるが、国会の舞台でも対立は必至だ。

離婚後共同親権への懸念を語る小川由華さん(仮名)=1月
離婚後共同親権への懸念を語る小川由華さん(仮名)=1月
離婚後共同親権への賛否
離婚後共同親権への賛否
離婚後共同親権への懸念を語る小川由華さん(仮名)=1月
離婚後共同親権への賛否

 ▽学校に通えない
 「親権を渡さないと、離婚には応じない」。西日本に住む30代の小川由華さん=仮名=は数年前、当時の夫に強く迫られた。
 元夫の不貞が原因で子どもと共に別居。離婚を求めても応じてもらえないまま、子どもを会わせていた。ある日「子どもを返さない」と連絡があり、駆け付けると立ちはだかる元夫に殴られた。
 親権者になれなければ離婚しない。養育費も払わない―。身勝手な主張に「お金がないと子どもを食べさせることもできない。振り回されることに疲れ、離れたい一心だった」。親権を譲り、日常的な世話をする監護権のみ小川さんが持つ内容で、離婚に合意せざるを得なかった。
 その後、遠方で母子の新たな生活を始めた直後、子どもの転校手続きをしようとして、元夫が子どもの住民票を勝手に移していたことが判明する。小川さんは親権がないため保護者として転校手続きができず、家裁経由で元夫に委任状作成を同意させるまでの間、子どもは1カ月以上学校に通えなかった。支払うと約束した養育費は、1度払われたきりだ。
 ▽危惧と批判
 要綱案では、父母が合意すれば共同親権を選択でき、合意できなければ家裁が共同か単独かを決める。ただ、DV当事者らは「そもそも力関係に差があり、対等に話し合えない」と懸念。小川さんも「私のように相手から逃れたい一心で、共同親権に応じてしまう人は多いと思う」と話す。
 また共同親権では、日常的な事柄以外は基本的に両親の合意が必要になる。対立すれば、その都度家裁が誰が決定するか判断する。小川さんの代理人弁護士は「相手の同意がないと重要な事項は決められない。小川さんの子が通学できなかったように、学校や医療現場で同様のケースが増えるだろう」と危惧する。
 共同親権推進派は「離婚後に父母とも養育に関われる」「子の連れ去りを防げる」といった理由を挙げる。子と別居する親には今回の要綱案を「第一歩」と歓迎する声がある一方、原則を共同親権と明記すべきだと考える人たちからは「子どもに会えない状況が改善されるには足りず、骨抜きだ」との批判も上がる。
 ▽異例の採決
 「全会一致を望んでいたが、採決になり、異例だ」。30日の部会後、3年近くの議論を率いた学習院大教授の大村敦志部会長はこう述べた。
 審議は複雑な経緯をたどった。2022年8月には中間試案に関し、強硬に共同親権導入を求める保守系議員が反発し、自民党法務部会が紛糾。その後予定していたパブリックコメントの開始が遅れる事態になった。
 計37回の部会審議は、性犯罪の処罰要件改正などを巡り激しい議論が交わされた部会の計14回を大きく上回る。それでも賛否の溝は深いままで、3委員が反対した。法務省幹部は「長い時間をかけて真摯に議論してきたが、理解を得られず残念だ」と漏らした。

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