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【無人機攻撃で米兵死亡】報復宣言もジレンマ 中東安定化の目標遠く

 米軍のヨルダン駐留部隊が無人機で攻撃され、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスが戦闘を開始して以降、初めて死者を出した。バイデン政権は親イラン武装勢力の仕業として報復措置を誓う。だが軍事行動を強化すればするほど中東の緊張が高まり、安定化の目標から遠ざかるジレンマを抱える。

28日、ヨルダンで無人機攻撃を受け死亡した米兵3人に黙とうをささげるバイデン大統領=サウスカロライナ州(AP=共同)
28日、ヨルダンで無人機攻撃を受け死亡した米兵3人に黙とうをささげるバイデン大統領=サウスカロライナ州(AP=共同)
中東の親イラン勢力と米軍施設
中東の親イラン勢力と米軍施設
28日、ヨルダンで無人機攻撃を受け死亡した米兵3人に黙とうをささげるバイデン大統領=サウスカロライナ州(AP=共同)
中東の親イラン勢力と米軍施設

 ▽怒り
 「つらい日になった。対処しなければならない」。バイデン大統領は28日、滞在先の南部サウスカロライナ州で、死亡した米兵3人に黙とうをささげ、厳かに語った。
 普段は抑制的な対応が目立つオースティン国防長官も声明で「怒りに満ち、深く悲しんでいる。必要な措置を取る」と感情をあらわにした。ヨルダン北東部の補給施設に対する夜間の攻撃で、意表を突かれた形だ。
 ハマスが昨年10月7日にイスラエルを奇襲し、ガザで戦闘が始まった。米軍は中東に戦力を集中させ、イランなどイスラエルの敵対勢力の抑止を狙い、空母や原子力潜水艦も派遣。にらみを利かせたが、米軍が攻撃対象になる事例はむしろ増え、裏目に出ている。
 親イラン武装勢力はイラクで60回以上、シリアで90回以上、駐留米軍を攻撃した。紅海では商船のほか、米駆逐艦にも対艦弾道ミサイルによる攻撃を仕掛け、一触即発の事態が続く。
 ▽負の連鎖
 11月の米大統領選で再選を狙うバイデン氏が腐心するのが国内世論のバランスだ。共和党議員からは対イラン圧力が弱いと非難され、身内の民主党左派議員からはイスラエル寄りの姿勢を突き上げられる。
 「バイデンの弱さの悲劇的末路だ」。返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領はバイデン氏の失策が米兵の死を招いたとこき下ろした。
 緊張激化を避けるため報復攻撃を抑制すれば弱腰と非難され、軍事介入を深めれば血で血を洗う負の連鎖を招く―。バイデン氏の葛藤は深い。
 ▽制御不可
 イランは米国とイスラエルとの全面戦争を望んでいるわけではない。イラン軍事筋によると、各地の親イラン組織に戦線を拡大しないよう求めていたという。
 イラン外務省のキャンアニ報道官は24日、日本メディアとの会見で「抵抗組織は自らの利益に基づいて行動している」と述べていた。各組織の意思決定に対するイランの影響力には差があるとみられ、在イラン外交筋は「イランが制御できない部分もあるだろう」と推測する。
 イランは29日、今回の攻撃への関与を否定する声明を発表した。イランの意に沿わない形で、米軍攻撃が繰り返される可能性がある。(ワシントン、テヘラン共同=高木良平、渡会五月)

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