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「旅」昭和の町を爆笑周遊バスで 人情豊か、エモい商店街 大分県豊後高田市

 昭和がブームという。スマートフォンもパソコンも液晶テレビも普及していない時代。昭和30年代の商店街の面影を残す、大分県豊後高田市の「昭和の町」を訪ね、人気の理由を探った。

昭和の町の商店街を走るレトロなボンネットバス。懐かしい姿に観光客がカメラを向ける=大分県豊後高田市
昭和の町の商店街を走るレトロなボンネットバス。懐かしい姿に観光客がカメラを向ける=大分県豊後高田市
昭和ロマン蔵の「駄菓子屋の夢博物館」。懐かしいキャラクターグッズがいっぱいだ=大分県豊後高田市
昭和ロマン蔵の「駄菓子屋の夢博物館」。懐かしいキャラクターグッズがいっぱいだ=大分県豊後高田市
大分県豊後高田市の「昭和の町」と田染荘
大分県豊後高田市の「昭和の町」と田染荘
昭和の町の商店街を走るレトロなボンネットバス。懐かしい姿に観光客がカメラを向ける=大分県豊後高田市
昭和ロマン蔵の「駄菓子屋の夢博物館」。懐かしいキャラクターグッズがいっぱいだ=大分県豊後高田市
大分県豊後高田市の「昭和の町」と田染荘

 まず無料の周遊バスへ。鼻先が前に出た、アニメに出てきそうなボンネットバスだ。「発車オーライ」。バスガイドの西佐知子さんがマイクを手にした。「ようこそ昭和の町に。他に行くところ、いっぱいあるのにいいの? こんなとこ来て」と乗客を笑わせる。
 バスは1957(昭和32)年式。ガタゴトと激しく揺れる車内に立つ西さんは、ツイストを踊るように鮮やかにステップを踏み、軽やかに案内を続ける。プロだなあ。古さゆえ、車内にすきま風が吹くが「空気は常に入れ替わるから、今の時代に合わせたバスよ」と最先端を強調した。
 西さんの漫談、いやガイドは続く。バスは商店街をトコトコ。高度成長期、この通りは活気があった。だが、郊外の大型店などに客を奪われ、「犬猫しか通らない」とまで言われたという。何とかせねばと2001年、昭和の古い町並みを生かした活性策が始まった。
 「ただ単に、お金がなくて設備投資ができなかっただけよー」。だが、昭和ブームの追い風もあり、人口約2万2千人の豊後高田市に、年間約30万人の観光客が訪れる。
 車窓からクワガタを売る玩具店、コロッケが名物の精肉店などが見え、店員さんが手を振った。すかさず「手を振っている意味、みんな分かるよね。お金に余裕があるから旅に出たんだよね。後でお店に寄ってよね」と西さん。爆笑した乗客は大きくうなずいた。バスは昭和ロマン蔵という町の中核施設がある終点へ。「タイムマシンで昭和に到着です。バイナラー」
 ガイドを終えた西さんは「商店街はずっと変わらないことが魅力。町の人や自然にも注目してほしい。超マイナーヒーローの昭和仮面もいますよ」。どこの誰ですか?
 降車後は商店街をぶらぶら。学校給食風の料理を出す喫茶店、40年以上値上げしていない食堂、ハンバーガーチェーン店がないからと誕生した豊後高田バーガーの店…。店員さんは会話好きだ。市商工観光課の吹上幸司さんは「昭和のお店は人情豊かで、家電などもデザインが曲線的。温かみを感じるから、昭和が人気なのでは」。
 福岡県から来た24歳の女性はカフェでコッペパンを頬張る。「街灯や町並みがおしゃれで懐かしい」。もえとか、胸キュンですか? 新人類世代のおじさん記者が聞くと、Z世代の彼女は無言に。しばらくして「エモいかなあ。写真映えしますし」と答えてくれた。令和では感情が動かされることをエモいと言うそうだ。
 夕刻、地元の人に薦められた「田染荘」へ車で。平安中期の荘園の景観を残す貴重な棚田で、冬の夜はあぜ道に並べられたライトが点灯し幻想的な世界に。昭和の町と同じで「今あるもの」を工夫して魅力を発信する精神に感服した。
 【メモ】ボンネットバスは週末と祝日を中心に運行。

いい茶0

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