テーマ : 読み応えあり

【緊急消防援助隊】消防車の大型化、裏目か 柔軟な運用求める声も

 能登半島地震で派遣された緊急消防援助隊は、被災地へ向かう悪路に多くの消防車両が苦戦した。総務省消防庁が南海トラフ巨大地震などを想定し、各地で装備充実を進める中、大型車の出動が裏目に出た可能性がある。識者は「災害に応じて柔軟に消防車を選び、人員を迅速に配置する体制整備が今後必要だ」と指摘する。

倒壊した建物の前を通行する消防車=2日、石川県輪島市
倒壊した建物の前を通行する消防車=2日、石川県輪島市
地震で寸断された石川県輪島市の道路=2日
地震で寸断された石川県輪島市の道路=2日
甚大な被害が出た石川県珠洲市宝立町の沿岸近くを捜索する消防隊員=3日
甚大な被害が出た石川県珠洲市宝立町の沿岸近くを捜索する消防隊員=3日
「緊急消防援助隊」登録部隊の推移
「緊急消防援助隊」登録部隊の推移
倒壊した建物の前を通行する消防車=2日、石川県輪島市
地震で寸断された石川県輪島市の道路=2日
甚大な被害が出た石川県珠洲市宝立町の沿岸近くを捜索する消防隊員=3日
「緊急消防援助隊」登録部隊の推移

 ▽立ち尽くす隊員
 1月2日午後、石川県穴水町の消防署。奈良県から派遣された消防車など十数台が駐車し、車外で立ち尽くす隊員の姿があった。隣接する輪島市への道路が寸断され、迂回路も渋滞し、その先に進めない状態に置かれていたためだ。県大隊によると、この日は金沢市に引き返す判断をした。
 緊急消防援助隊は、普段は地元の消防で活動する部隊が、大規模な災害救助に駆け付ける仕組み。1995年に1267隊で発足、昨年4月時点で約5倍に増強された。
 現在の計画では、主な目的に「南海トラフ地震等の国家的非常災害」「大規模風水害」「テロ災害」への対応を掲げ、水陸両用車や重機など救助活動に特化した特殊車両の編成を進めている。
 ▽分乗
 だが今回、特に大型や低床の消防車両が、道路の損壊が甚大な地点で走行を阻まれるケースが相次いだ。重機や大型水陸両用車を運ぶ車両のほか、被災地の前線で部隊活動を支える資機材を積んだ車などは、被害が集中した珠洲市や輪島市から約100キロ離れた金沢市での待機が目立った。
 滋賀県大隊は2日まで金沢市で待機となり、大型車両を残して被災地に向かった。3日に必要な資機材を積んだ小型の車両やマイクロバスに分乗して珠洲に入り、救助に取りかかった。
 県大隊長を務めた大津市消防局の小田浩文警防課長は「初動で車も人も現場に投入できず、つらかった。生存率が大幅に下がる72時間の壁までにいかに一人でも多くの命を助け出すか、発想を柔軟に議論するべきだ」と訴える。
 ▽矛盾
 別の県大隊長は、総務省消防庁が東日本大震災以降、装備を重視して車両の大型化が進む現状に対し「人員の輸送や機動性を軽んじている」と疑問視。「その矛盾が表面化した。今後の教訓にしなければ」と悔やんだ。
 ただ小型車の課題もある。運べる資材が少なく、「救助に最小限の資機材しか使用できなかった」「スコップなどに限られる」との声もあった。
 関西大の永田尚三教授(消防・防災行政)は今回の災害対応について「現場での即応性を重視し、高性能で大型な消防車両を出動させるしかなかったのだろう」と分析し、「半島地震の特殊性もあったが、巨大地震だけではなく多様な災害への対応能力を強化する必要がある」と述べた。

いい茶0

読み応えありの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞