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【精神科訪問看護】利益優先、自社で囲い込み 障害者、気付きにくい構造

 一部で診療報酬の不正、過剰な請求が疑われる精神科の訪問看護。株式会社などが利益優先で自社のグループホーム(GH)や介護施設の入居者をまとめて対象とし、囲い込んでいる実態がある。精神障害や知的障害のある人は多くが生活保護や医療費軽減制度の対象。事業者が不正をしても自己負担にはね返らず、気付きにくいという点につけ込んでいる。

神奈川県内の男性看護師が、勤めていた訪問看護大手の会社で2021年に上司から受け取ったLINEメッセージ(画像の一部を加工しています)
神奈川県内の男性看護師が、勤めていた訪問看護大手の会社で2021年に上司から受け取ったLINEメッセージ(画像の一部を加工しています)
神奈川県内の男性看護師が以前勤めていた訪問看護大手の会社の内部資料
神奈川県内の男性看護師が以前勤めていた訪問看護大手の会社の内部資料
神奈川県内の男性看護師が、勤めていた訪問看護大手の会社で2021年に上司から受け取ったLINEメッセージ(画像の一部を加工しています)
神奈川県内の男性看護師が以前勤めていた訪問看護大手の会社の内部資料

 ▽違和感
 「もう嫌気が差しました」。愛知県内の看護師の女性は、うんざりした様子で話す。女性は以前、各地で障害者向けGHを約100カ所運営する「恵」の訪問看護ステーションに勤務していた。「必要ないのに、GHの入居者に『健康管理』の名目で訪問看護を週3回、目いっぱい利用させ、さらに診療報酬を不正請求する」実態に疑問を感じ、退職した。
 訪問看護を手がける別の会社に転職したが、再びがくぜんとした。恵と同様、自社のGH入居者にほぼ一律に週3回の訪問看護を利用させていたからだ。「こっちの会社は、高い報酬を取るため複数人での訪問にする手法でした」と女性。失望し1カ月ほどで辞めた。
 神奈川県内の男性看護師も似たような経験を持つ。2年前まで勤めた訪問看護大手の会社では、会議資料に売り上げや利益率の目標がずらりと並び、目標として「確実に日本1にする」との文言が掲げられていた。
 グループ会社が運営する有料老人ホームの入居者を、協力関係にある医師が「うつ病」「統合失調症」などと診断。診療報酬で「30分以上」の区分を取るため、症状に関係なく会社が「1人当たり35分訪問」と決め、「週3回が目標」と指示を出していた。男性は「利用者より利益が優先で、働けば働くほど違和感が募った」と振り返る。
 ▽医師への依頼
 疑問の声は医師からも上がる。愛知県内の精神科医は「GHと訪問看護を運営する事業者は大体同じような傾向だ。医療法人でも、GHと組んで似たことをしている例がある」と明かす。
 「複数名での訪問指示をお願い致します」。神奈川県内の精神科医は昨年、そう書かれた文書を受け取った。差出人は、同県内でGHと訪問看護を運営する事業者。しかも、そのGH入居者には既に訪問看護を始めたことになっていて、開始日がさかのぼって書かれていた。「複数人訪問は適さないケース。医師が判断することなのに、おかしい」と眉をひそめる。
 ▽大きな役割
 通常、医療費には1~3割の自己負担がある。事業者が過大に診療報酬を請求すれば、その分、利用者負担も増えるので、不審な点に気付きやすい。だが精神、知的障害者では低収入の人が多い。生活保護の場合は医療費の本人負担はなし。障害者には「自立支援医療」という軽減措置があり、低所得の場合は月の負担が2500円までなどと定められている。過剰な医療を受けても懐が痛まない上、障害ゆえに主張できない人もいる。
 ただ、障害者が地域で暮らす上で訪問看護の役割は大きい。利用者からは「医師の診察時間は短くてあまり話せないが、訪問看護ではいろいろなことが相談できる」といった声が上がる。
 神奈川県伊勢原市で訪問看護ステーションを運営する山田祥和さん(48)は「医療面だけでなく、生活や仕事の面でも利用者を支えるのが私たちの役割。真面目にやっている事業者も多く、『全体が悪い』とは見ないでほしい」と話した。

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