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小選挙区制導入は大失敗 ジャーナリスト・田原総一朗氏 皆逆らえずイエスマンに「さまよう民主主義」(1)選挙制度

 はびこる「政治とカネ」問題、高まる政治不信…。日本の民主主義が危うい。テレビの討論番組で白熱した議論を戦わせてきたジャーナリストの田原総一朗氏は選挙制度に問題があると指摘。「今こそ変えなければ」と訴える。1年にわたり、一線の識者がさまざまな事象の背景を探り日本の行方を問う。(聞き手は、共同通信編集委員の内田恭司、写真は今里彰利)

「なぜ政治家が裏金を作ってまでカネを集めるのか。政治家が選挙で有権者に必死さを分かってもらうには、最後はカネなんですよ」と田原総一朗氏 2023年11月14日、東京・東新橋の共同通信社で撮影
「なぜ政治家が裏金を作ってまでカネを集めるのか。政治家が選挙で有権者に必死さを分かってもらうには、最後はカネなんですよ」と田原総一朗氏 2023年11月14日、東京・東新橋の共同通信社で撮影
田原総一朗氏(手前左)と宮沢喜一首相(手前右)、郵政選挙で当確のバラを付ける小泉純一郎首相(背景左)と2014年衆院選の自民党開票センターでインタビューに答える安倍晋三首相(背景右)のコラージュ
田原総一朗氏(手前左)と宮沢喜一首相(手前右)、郵政選挙で当確のバラを付ける小泉純一郎首相(背景左)と2014年衆院選の自民党開票センターでインタビューに答える安倍晋三首相(背景右)のコラージュ
質問に耳を傾ける田原総一朗氏。「自民党も議員が小粒になった。今は総理大臣になりたいと思わない。大臣になれればそれでいいと思っているんだ。公認を得られれば当選できてしまう選挙制度の弊害だね」
質問に耳を傾ける田原総一朗氏。「自民党も議員が小粒になった。今は総理大臣になりたいと思わない。大臣になれればそれでいいと思っているんだ。公認を得られれば当選できてしまう選挙制度の弊害だね」
インタビューで笑顔を見せる田原総一朗氏
インタビューで笑顔を見せる田原総一朗氏
ニュース写真の前に立つ田原総一朗氏=東京都港区
ニュース写真の前に立つ田原総一朗氏=東京都港区
「なぜ政治家が裏金を作ってまでカネを集めるのか。政治家が選挙で有権者に必死さを分かってもらうには、最後はカネなんですよ」と田原総一朗氏 2023年11月14日、東京・東新橋の共同通信社で撮影
田原総一朗氏(手前左)と宮沢喜一首相(手前右)、郵政選挙で当確のバラを付ける小泉純一郎首相(背景左)と2014年衆院選の自民党開票センターでインタビューに答える安倍晋三首相(背景右)のコラージュ
質問に耳を傾ける田原総一朗氏。「自民党も議員が小粒になった。今は総理大臣になりたいと思わない。大臣になれればそれでいいと思っているんだ。公認を得られれば当選できてしまう選挙制度の弊害だね」
インタビューで笑顔を見せる田原総一朗氏
ニュース写真の前に立つ田原総一朗氏=東京都港区


 30年前の1994年1月に細川政権で、衆院への小選挙区比例代表並立制導入を柱とする選挙制度改革が実現したが、これは失敗だったと僕は思っている。問題はいろいろあるが、一番大きいのは小選挙区制だと1人だけを選ぶので、議員が執行部のイエスマンになってしまうことだ。

 第2次安倍政権の時が典型だ。長期政権が続くうちに、みんな安倍晋三首相のイエスマンになった。自民党執行部に「ノー」と言えなくなり、党内に論争がなくなった。選挙の公認権もカネも握られているからだ。

 岸田政権はその時より深刻だ。内閣支持率がこんなに低いのに岸田文雄首相が退陣に追い込まれない。誰も時の権力者に逆らおうとしないからだ。「ポスト岸田」と言うが、自ら政権を倒しにいく人がいない。しかもこの制度は、親から地盤を引き継ぐ世襲議員に有利に働くから、自民党は今も世襲だらけだ。

 もう一つ、岸田政権下ではとんでもないスキャンダルも露呈した。派閥のパーティー券をノルマ以上に売った議員に金をキックバックする際、収支報告書に計上しないで裏金化していたのだ。

 ▽「大いに責任」

 僕も、複数が当選できる中選挙区制をやめて、小選挙区制にするべきだと思った時期があった。

 リクルート事件で自民党は金権腐敗だと批判されたのに、改革は進まなかった。だけど、1992~1993年に金丸信元党副総裁による巨額不正蓄財が明らかになると、国民の政治不信は頂点に達した。

 そんな時、自民党で政治改革に取り組んだ後藤田正晴元副総理が「話がしたい」と言ってきた。会うと「中選挙区制では同士打ちになるので、どうしても金権政治になってしまう。民主政治を続けるには小選挙区制にしなければ」と、2時間以上かけて僕を説得した。

 僕も「その通りだ」と思い、テレビ朝日の「総理と語る」という番組で、当時の宮沢喜一首相に「選挙制度改革は本当にやるんですか」と切り込んだ。宮沢さんは「やるんです」と言い切った。

 だけど、自民党には反対勢力が多数いたので変えられず、内閣不信任決議案が可決された。その結果、衆院解散・総選挙になり、政権交代を果たした細川内閣の下で選挙制度が変わった。

 番組での発言が政権交代の引き金になったという意味では、僕には選挙制度を変えた責任が大いにある。実際、その時は正しいと思い込んでしまった。当時の河野洋平自民党総裁をはじめ、与野党の誰に聞いてもみんな大賛成だったんだ。

 ▽新たな政治を

 この選挙制度は変えた方がいい。だから、第2次安倍政権で自民党幹事長だった石破茂さんに「中選挙区制に戻したら」と言ったことがある。でも、石破さんは反対だった。中選挙区制は表に出せない金が必要になるが、小選挙区制は金がかからないという認識だった。
 次の幹事長の谷垣禎一さんにも「制度を見直すべきだ」と進言した。谷垣さんは乗り気だったが、しばらくして「与党も野党も、今の制度で当選しているから変えたくない」と言ってきた。

 その後、谷垣さんは自転車事故で大けがを負い、辞任してしまった。結局、選挙制度はいまだ変わっていない。

 裏金問題にしたって、選挙制度改革で「金のかからない政治」を掲げたのに、どの派閥も、選挙には金がかかるし、使い方にいろいろ問題があるからと計上せずに裏金化してきた。だから議員もそういうものだと思い、裏金のまま受け取っていたのだろう。

 繰り返すが、今の制度では執行部へのイエスマンばかりになる。野党だって自民党を批判するだけで結集できないので、いつまでたっても弱い。有権者は自民党が勝つと思って選挙に行かない。投票率が低いから自民党が安定している。

 日本の政治はこのままでいいのか。僕は選挙制度をどうすればいいのかを真剣に考える会をつくりたい。新たな政治の在り方が今こそ求められている時はない。
   ×   ×
 たはら・そういちろう 1934年滋賀県生まれ。東京12チャンネル(現テレビ東京)などを経て独立。テレビ朝日系の「朝まで生テレビ!」でジャーナリズムに新風を吹き込んだ。「日本の戦争」など著書多数

 ▽取材を終えて(内田恭司)

 衆院選挙制度が小選挙区制になり、自民党がイエスマンだらけになったのは、その通りだと思う。

 2005年に当時の小泉純一郎首相が郵政民営化を掲げて衆院解散を断行し、反対派に次々と「刺客」候補を立てた。多くは当選し「小泉チルドレン」と呼ばれた。

 2012年の衆院選で自民党が大勝して政権奪還を果たし、安倍晋三首相が誕生すると、初当選した新人議員は時に「安倍チルドレン」と称された。

 小泉チルドレンは、反対派を切り捨てる強権の発動を見せつけられたし、安倍チルドレンは「1強体制」の下で2014年、2017年と衆院選で当選を重ねることができた。これではとてもトップに逆らうことはできないだろう。

 公認権と金を握られているからとイエスマンになる議員には、政治家としての信念はないのかと言いたくなる。譲れない主張や政策があれば貫けばいい。だが、そうした議員は「何とかチルドレン」が次々と生まれる中で、絶滅危惧種になってしまった感がある。

 政治状況は民意の映し鏡でもある。政治の風景を変えるには、政治家を選ぶ有権者の眼力も問われていると思う。

 ▽言葉解説「30年前の選挙制度改革」

 衆院に小選挙区比例代表並立制を導入した改革。リクルート事件を受け、政治家同士のサービス合戦となる中選挙区制が金のかかる政治の元凶だとして、党派を超えて改革論議が巻き起こり、1994年1月、細川政権下で導入が実現した。総定数500で小選挙区300、比例代表200。比例は全国11ブロックとし重複立候補を認めた。

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