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映画「MEN 同じ顔の男たち」 トラウマと暴力性、鮮烈に

 悪夢のような鮮烈なイメージと、ざらりとした後味が残る。映画「MEN 同じ顔の男たち」は鬼才アレックス・ガーランド監督が米の映画会社「A24」と組んだ衝撃作だ。ホラーにもダークファンタジーにも思えるが、実は現代社会を映すメタファー(暗喩)が随所に潜み、観賞後もしばらく思考が乗っ取られる。

(c) 2022 MEN FILM RIGHTS LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
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 主人公のハーパー(ジェシー・バックリー)は夫ジェームズの転落死を目撃したトラウマを癒やそうと英国の田舎町を訪れる。豪華な屋敷の管理人ジェフリー(ロリー・キニア)に出迎えられた彼女は、やがて奇妙なことに気づく。町で出会う少年や神父、警察官ら男たちが皆、ジェフリーと同じ顔なのだ。不穏な出来事はエスカレートし、ハーパーは心身共に追い詰められていく…。
 男たちには、顔以外にも共通点がある。ハーパーに向ける理不尽で不可解な暴力性だ。それは言葉や侮蔑的な態度、物理的な襲撃などさまざまだが、受ける側にしてみれば訳が分からないという点で通底している。
 そもそもジェームズの死は彼の暴力を理由にハーパーが離婚を切り出したことがきっかけだが、自死か事故か分からなかったことで、ハーパーは重い罪悪感を背負った。トラウマと再生という心理的なテーマが、時に美しく、時に不穏な映像で描かれ、ガーランド監督の創造力に舌を巻く。
 最終盤の予測不能な展開とキニアの怪演は怖さを超越した衝撃で、ただただあぜん。一体何を見せられているのかと頭が混乱するが、一拍置くと分かる。暴力は連鎖し、再生産されるのだ。そんな「男たち」を見つめるハーパーの理性的で白けたまなざしが、救いだった。1時間40分。(涼)
 【アナザーアイ】自然の樹木と一体化したような不思議な男らが登場。恐ろしいだけでなく、自然への畏怖や民俗学的なアプローチも感じられる。(朗)

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