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テーマ : 三島市

音楽をやりたいという気持ちのままに 作・編曲家(富士市出身)/林哲司【あのころの私⑥】

 竹内まりやさん「SEPTEMBER」(1979年)、杏里さん「悲しみがとまらない」(83年)、中森明菜さん「北ウイング」(84年)など多くのヒット曲で知られる作・編曲家の林哲司さん(74)=三島市=。近年は「シティ・ポップ」ブームの担い手として、世界中から注目を集める。ことしは活動開始50周年。音楽と共にあった富士市での中学高校時代を見詰め、「導かれるようにここまできた」と感慨を込めた。

「デイブ・クラーク・ファイブ、ホリーズといったメロディーがいいグループが好きだった」と話す林哲司さん=12月上旬、静岡市駿河区(写真部・二神亨)
「デイブ・クラーク・ファイブ、ホリーズといったメロディーがいいグループが好きだった」と話す林哲司さん=12月上旬、静岡市駿河区(写真部・二神亨)
中学時代の林さん。「(ジャズ奏者の)ベニー・グッドマンが好きな兄貴にクラリネットを薦められました」
中学時代の林さん。「(ジャズ奏者の)ベニー・グッドマンが好きな兄貴にクラリネットを薦められました」
「デイブ・クラーク・ファイブ、ホリーズといったメロディーがいいグループが好きだった」と話す林哲司さん=12月上旬、静岡市駿河区(写真部・二神亨)
中学時代の林さん。「(ジャズ奏者の)ベニー・グッドマンが好きな兄貴にクラリネットを薦められました」


 音楽が生活に入ってきたのは吉原三中に入学してから。ブラスバンド部で毎日クラリネットを吹いていました。ラジオで聴いた洋楽や映画音楽の旋律を耳で覚えて、階段の踊り場で演奏していた。ギターを始めたのも中学時代です。(英歌手の)クリフ・リチャードに憧れていました。
 富士高に入った頃、加山雄三さんが自作曲を自分のバンドで歌うようになりました。当時としては革新的で、楽曲がとても格好良かった。それで、もしかしたら自分にも曲が作れるかもしれないと、簡単なコード進行にメロディーを乗せたら、できちゃったんです。教室でギターを抱えて歌ったら大騒ぎになった。
 音楽で食べていくことは考えられなかった。僕らはベビーブーム世代だから「将来何になるんだ?」ではなくて、「どの大学に行くんだ?」と問われたんです。とりあえず大学を出ておけば何かの職業に就ける。そういう時代ですよ。高校時代は1クラスに50人近くいたと記憶しています。がんばらなくては勝てない。
 でも、そんな中で音楽にのめり込んで行った。好きか嫌いかの問題ですからね。(ギターを)弾きたいから弾く。たくさん曲を聴き、コピーすることで、楽曲がどんな形をしているかを知る。サウンドへの探究心も湧いてくる。勉強じゃないんです。本を書きたい人がいっぱい小説を読むのと同じですね。

 高校入学直後、文芸部の先輩4人のバンドにエレキギター担当で加わりました。ところが夏になると先輩はみんな受験準備に入り、活動は停止してしまった。僕は置き去りにされた形です。
 それで、サッカー部に入りました。入部後すぐに夏の合宿でしたが、ほかのみんなは春から活動しているから体ができている。僕はそうじゃない。練習に付いていけないんです。苦しくて、疲れてしまって、最初は逃げたいぐらいでした。
 音楽は続けていました。毎日、暗くなるまでサッカーをやる。家に帰って飯を食う。その後、高校生はテレビを見たり休んだりするじゃないですか。その時間に僕は部屋でギターを弾いて、作った曲をオープンリールテープに入れていた。それが習慣でした。日記を書くようなものですね。
 高校の3年間に200曲ほど作りました。同級生ともバンドをやったけれど、音楽への「好き」の度合いが違うんですよね。触発し合って燃えるような感覚はなかった。

 サッカー、音楽をやっていて、勉学に対しての危機感はありましたね。家では宿題をやるのが精いっぱいでしたから。作品の音楽的なクオリティーの高まりと反比例するように、勉強のクオリティーはどんどん落ちていく。それが成績という形ではっきり見える。3年生の頃はジレンマを抱えながら生活していました。
 でも作曲をやめなかった。本当に音楽が好きだったから。その道が今に続いています。「好きこそものの上手なれ」に尽きると思いますよ。理屈は何もなくて、音楽をやりたいという気持ちのままに行動していたら、いろいろな選択肢に導かれるようにして50年が過ぎた。決して順風満帆ではなかったけれど、中高生時代に打ち込めるものが見つかったことを幸運だったと感じています。
 (聞き手=教育文化部・橋爪充)

 はやし・てつじ 1949年、富士市生まれ。73年にシンガー・ソングライターとしてデビュー。以後、作・編曲家としての活動を中心に作品を発表。これまでに1500曲超を手がけた。今年11月に発表した50周年記念のトリビュートアルバム「サウダージ」には、中森明菜さんの新録セルフカバー「北ウイング―CLASSIC―」をはじめ、杉山清貴さん、中西圭三さん、原田知世さんらゆかりの歌手による12曲を収録。

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