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特集 : 大井川とリニア

安定供給 産業の基盤 利用可能量減 発展阻む【大井川とリニア 第5章 渇水から考える④】

 大井川の水は水力発電や製造業、農業などに幅広く使われ、経済活動を支えている。水源が乏しい右岸に渇水期も安定供給し、企業誘致の可能性を広げてきた。リニア中央新幹線工事に伴う流量減少により流域全体で利用可能な水が減れば、産業力を弱め、将来の開発の芽を摘むことにつながりかねない。

大井川からの東遠工業用水を利用するスズキ相良工場。安定した水供給が地域産業を支えている=1月下旬、牧之原市(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)
大井川からの東遠工業用水を利用するスズキ相良工場。安定した水供給が地域産業を支えている=1月下旬、牧之原市(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 JR東海は昨年2月に県議会最大会派自民改革会議との協議で、水利用に影響が出て損害が生じた場合、工事が原因と確認できれば補償する方針を示したが、地域が受ける水の恩恵を金で補えるとは限らない。
 川の標高差を利用して電力を生み出す水力発電。急流の大井川には多くの発電所がある。中部電力管内の発電量に水力が占める割合は1割程度だが、浜岡原発(御前崎市)の再稼働が見通せない中、太陽光や風力より計画的に発電しやすく、ピーク時の電力需要も補える貴重な再生可能エネルギーだ。リニア工事で上流からの水量が減れば、水力による電力供給量を減らさざるを得ない。
 右岸は歴史的に水不足に悩まされ、県内の東海道沿線では工業用水の空白地域として残った。長島ダムの水道用水利権の一部を転換し、農業用水路を使用する形で工業用水の供給が始まったのは2007年。それ以前は農業用水を違法に転用して発覚したこともある。当時、小笠町(現菊川市)の町長だった黒田淳之助さん(83)は「農業だけでなく、工業も安定して水を使えるようになって地域は繁栄した」と振り返る。
 07年当初に2市11社だった工業用水の供給先は4市16社に増え、水の使用量は倍増。スズキ相良工場(牧之原市)をはじめ、自動車部品や化学製品メーカーが洗浄、冷却用に活用し、通年で一定の水量が必要。供給が細れば操業に支障が生じ、企業の撤退につながりかねず、東遠工業用水道企業団の大石良治事務局長は「そうなれば地域の産業は衰退する」と訴える。
 水田の宅地化で農業用水の利用は減るとの見方があるが、流域では冬場も水を多く使うイチゴやメロンの施設栽培、裏作でレタスなどの栽培が盛んだ。農業用水を切り詰めれば、農家が栽培する作物の選択肢を狭めかねない。
 JRはトンネル工事中、湧水の県外(大井川水系外)流出は避けられないとし、工事後も長期にわたり地下水位が下がると説明しているが、必要な議論はこれからだ。国土交通省専門家会議の福岡捷二座長は最近の会議で「中下流域の河川流量(表流水)が維持されれば、地下水量への影響は極めて小さい」とのコメントを重ねて示した。将来にわたって産業や生活を支える流量は維持されるのか―。専門家会議は科学的に示す責任を負っている。

 <メモ>大井川下流の表流水利用 中部電力が上中流で水力発電に使った表流水を再利用し、島田市北部の川口取水工から配水される。農業用は左岸と右岸の田畑を潤し、牧之原台地では茶生産の基盤になる。工業用は新東海製紙島田工場でパルプ製造に使われるほか、掛川市や牧之原市など右岸にも供給される。特種東海製紙の赤松発電所(島田市)は水力の再生可能エネルギーとして売電している。

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