あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 三島市

社説(1月12日)観光立県 需要捉え地域資源磨け【2024しずおか 変革の一歩】

 新型コロナウイルス禍が一段落し、国内の観光需要が回復しつつある。観光庁の宿泊旅行統計調査(速報値)によると、国内の旅館・ホテルの延べ宿泊者数は、昨年10月が5378万人で2019年同月のコロナ禍前と比べて7・4%増え、11月も5356万人で7・9%増だった。日本人と外国人ともに堅調で、特に外国人は10月が1226万人(19年同月比19・5%増)、11月が1160万人(同28・0%増)と顕著だ。
 静岡県内の観光事業者によると、本県の宿泊者数はコロナ禍前の水準にほぼ戻りつつあるという。昨年10月の延べ宿泊者数は170万6千人(同0・4%増、同庁まとめ)だった。
 ただ、日本人の宿泊が伸びた一方、外国人は19年10月比で54・1%減と回復が遅れていて、減少率は同60・9%減だった宮崎県に次ぐ全国ワースト2位となった。需要を把握し、低迷の原因を分析する必要がある。回復の速さには地域によってばらつきがあり、伊豆など交通アクセスが良くない場所は鈍いという。
 コロナ禍で観光業を取り巻く社会・経済構造は大きく変わった。人手不足が加速し、観光地や宿泊施設は受け入れ体制の再構築を迫られている。ガソリン価格の高止まりは旅行客の行き先の選択に影響している。物価高騰も、豪華さよりサービスの質を重視するといったニーズの変化をもたらした。このためコロナ禍前とは違った取り組みが不可欠だ。官民挙げて地域の付加価値を見いだし、共有して磨き上げなくてはならない。規模や知名度にかかわらず、光り輝く個性で勝負したい。
 例えば県東部・伊豆には豊富な食と温泉、自然がある。従来のように単にそれらを組み合わせるのではなく、その地域の風土や食から派生した文化と歴史を一体で楽しむ「ガストロノミーツーリズム」には独自性がある。ガストロノミーツーリズムに基づく活動は既に昨年から富士宮や三島両市などで始まっている。県内の料理人や生産者、観光事業者らによる官民の推進組織が発足して新たな旅行モデルの構築を進めている。世界ジオパークを擁する伊豆半島まで連携するエリアを広げ、地域資源を進化させる姿勢が欠かせない。
 国連が掲げ、世界中の企業や行政が取り入れているSDGs(持続可能な開発目標)を観光の特徴にするのも一案だろう。
 食品ロスの削減や、農水産物など地元特産品の有効活用を地域ぐるみで推進し、価値向上につなげる。SDGsへの関心が高いとされる若者を中心に訴求する方策を考えたい。企業や行政の先進事例を参考にすることもできる。
 富士急行はお膝元の富士五湖(山梨県)と箱根(神奈川県)に加え、本県の十国峠と初島でも振興事業を絡めて県をまたいだ観光客の周遊化に着手した。トヨタ自動車の次世代実証都市「ウーブン・シティ」(裾野市)の開業を見据え、今後はビジネスと観光の両面の効果が見込めるとして同市は観光戦略の策定に乗り出した。企業の事業を効果的に取り込むことが重要だ。
 観光客の周遊は行政や各地の宿泊施設、観光団体の連携が鍵を握る。大河ドラマ放映を機に一昨年、浜松・浜名湖ツーリズムビューローと東三河広域観光協議会(愛知県)がイベントを共催した。それぞれの地域を点と見るのでなく、全体を一つのテーマパークととらえる発想も必要ではないか。三島市と箱根町の両観光協会は連携して観光振興へ始動した。こうした動きを発展させ、他地域にも波及させたい。
 県内には複数の市町で構成する観光団体も存在するが、広がりが乏しく必ずしもスケールメリットを生かし切れていない。地域活性化と観光振興は切り離せない。個々の利害を超えて連携すべきだ。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

三島市の記事一覧

他の追っかけを読む