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テーマ : 三島市

イチョウ 世界で愛された「生きた化石」【しずおかに生きる植物 秋⑤】

 公園、寺院、街路樹で色づくイチョウの黄葉は、秋の深まりを感じさせる。静岡県内でも、三島駅北口や県立大(静岡市駿河区)の中に広がる黄金色の景観は、見事である。

イチョウの精子が発見された大樹=東京・小石川植物園
イチョウの精子が発見された大樹=東京・小石川植物園
イチョウが黄葉した並木道=三島市
イチョウが黄葉した並木道=三島市
イチョウの精子が発見された大樹=東京・小石川植物園
イチョウが黄葉した並木道=三島市

 イチョウはソテツと共に、地球上で最古の種子植物。そして巨木で長寿の裸子植物であり、生きた化石とも呼ばれる。葉は独特な扇形。被子植物の桜や柿の葉と比べると随分と異なる。イチョウの仲間は、2億年ほど前の中生代ジュラ紀に出現し、かつて恐竜と共存していたと化石は告げている。
 今日見るイチョウは、6500万年前の隕石[いんせき]衝突とその後の寒冷化で絶滅したとされていた。ところが中国の山地で自生が確認され、それがわが国に伝えられた。オランダ東インド会社の医師として長崎出島に1690年に赴任したE・ケンペルがそのイチョウをヨーロッパに紹介した。その後、イチョウはイギリスに伝わり最古の種子植物として世界中に広がった。
 裸子植物のイチョウが、どのように種子を作るのか。その仕組みの解明は植物界で最も偉大な発見である。それも日本人が成し遂げた。明治維新後、世界に後れを取っていた植物学。イチョウの受精を解明したのは帝国大(現東京大)助手の平瀬作五郎である。
 1896年、泳ぐ精子を発見、シダ植物と裸子植物のつながりも明らかになった。雌雄異株[いしゅ]のイチョウは5月に受粉し時間をかけて精子を育て9月に精子は卵に泳ぎ着き、受精し種子(銀杏[ぎんなん])となる。この時に研究されたイチョウは、今でも東京大付属の小石川植物園で生き続けている。同年秋には、池野成一郎同大助教授によってソテツの精子が発見された。わが国の植物学が、世界の植物界に貢献した最大の成果である。
 秋の夜長、銀杏を炒[い]って思いをはせながら味わってみるのも良い。
 (文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)

 秋編は終了します。冬編は1月に掲載します。

 

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