あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 三島市

老いと情 静かに見つめる 歌人・藤岡武雄さん(三島市)【表現者たち】

 歳下の友の死続くそれなのに百歳目ざせと声援つづく

「歌を詠むとストレス解消」と健勝の秘密を明かす藤岡武雄さん=三島市民生涯学習センター(東部総局・田中秀樹)
「歌を詠むとストレス解消」と健勝の秘密を明かす藤岡武雄さん=三島市民生涯学習センター(東部総局・田中秀樹)
藤岡武雄さんが手がけた歌集や主宰する同人誌、斎藤茂吉に関する研究書などの一部
藤岡武雄さんが手がけた歌集や主宰する同人誌、斎藤茂吉に関する研究書などの一部
「歌を詠むとストレス解消」と健勝の秘密を明かす藤岡武雄さん=三島市民生涯学習センター(東部総局・田中秀樹)
藤岡武雄さんが手がけた歌集や主宰する同人誌、斎藤茂吉に関する研究書などの一部


 歌作り八十三年の今にしてときにきほひの湧く空を見て

 歌誌「あるご」を主宰する歌人藤岡武雄さん(97)=三島市=の作品は老いを静かに見つめる視点と意気軒高が同居する。14歳で詠み始め、現在までに約1万首を残した。短歌について「日常の喜怒哀楽、自分の情[こころ]を表現するもの。年齢を重ねてもここは変わらない」と話す。
 1926年、当時の山口県大津郡日置村(現長門市)に生まれ、県立師範学校在学中に父の指導を受けながら「江原文鳥」のペンネームで作歌を始めた。往時は1日に200首を詠む熱中ぶりで、夜明け頃の夢に出てきた歌を起きてすぐ書き留めたものも30首ほどあるという。今も月に80~100首、年に約千首を詠む。「作った全てが良いものにはならない。良い歌を生み出すためには数をこなすことが大事」と歌人としての基本を語る。

 わが庭に降り積もりたる白雪は真向ふ富士の上までつづく

 自宅から見え、「もう友人のようだ」と話す富士山との付き合いは62年から。日大三島高の教諭となって三島市に移住し現在に至る。日常生活の中で作歌を進めるため、ポケットにはメモ帳を忍ばせる。見たこと、聞いたこと、感じたことを忘れないよう、全て書き込む。心が動いた瞬間の風景を絵にして描き留めることも。夜に歌を詠む際の参考にするという。
 「わけのわからん歌ばかり作って、読み手がそれを深読みして解釈する。そんなのは歌ではない」と現代の歌壇に懸念も示す。短歌は叙情であり叙事ではない、定型があっての短歌であり基本のリズムを身に付けていないと破調にも意味がない―。言葉の意味を深く捉えるために、万葉集や古今和歌集に立ち返る必要性を説く。後輩への助言を求めると単純明快。「自分の真実を歌いなさい。そうすれば人の心に訴える」
 昨年11月、歌集13冊をまとめた「藤岡武雄短歌選集」を出版した。選歌に加えコラム、年表、作詞した各地の校歌など歌人としての業績を詰め込んだ。若き日と老いてからの作品の違いは何か。「情の少し深いところまで詠めるようになったかな」とほほ笑んだ。
 (教育文化部・マコーリー碧水)

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

三島市の記事一覧

他の追っかけを読む