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テーマ : 三島市

加和太建設 若手育成が多様性高める【しずおか企業探訪~経営とD&I~⑤】

 静岡県では少子化に加えて若年層の県外流出が増えており、多くの企業は人材不足や高齢化に悩んでいます。新しい人が採用できないことに加え、若い人を採用しても辞めてしまうのです。とりわけ育成に時間がかかる専門性の高い業界ではこの問題は深刻です。
 そうした業界の一つが、建設業界です。現場監督は現場の全てを取り仕切る技術と経験が必要で、責任も大きい専門職。一人前になるには10年を要すると考えられていますが、その前に辞めてしまう人が後を絶ちません。一方で仕事の受注には有資格者の有無が条件にあることも多く、受注できる体制の維持には人材育成が鍵となります。
 三島市の加和太建設も、数年前までは人材の入れ替わりが激しい会社でした。リクルートと三井住友銀行を経て2007年に入社した社長の河田亮一さん(46)も、新卒が3年以内に辞めてしまうという現象に悩んでいました。しかし、現場経験のある30代が管理職になると、若手社員の声を経営層に伝えてくれるようになりました。「背中を見て学べ」という考え方の現場では、若手は仕事のやりがいを感じられるまでに年数がかかり、その前に退職していることが分かりました。
 河田さんは、社内の管理体制と人材育成の仕組みを見直しました。例えば、入社3年目には、建設現場の全体像が把握できるようなプロジェクトを経験させるようにしました。もちろん先輩によるフォロー体制の整備やプロジェクトの規模には配慮しますが、「早くに仕事の達成感ややりがいを実感した社員は、その後辞める可能性が低い」と言います。
 また、体力やライフステージの変化によって現場での仕事が続けられない社員には、現場の知識を生かして後方支援を行う「業務支援室」という活躍の場もあります。この部署が作業の一部を引き受けることで、現場の残業時間が減りました。入社7年目の宇佐美祐衣さんは「体力的に現場の仕事を長く続けるのは厳しいと思ったが、現場経験で得た知識や資格を生かしたい気持ちがあった。上司に相談した結果、この部署が設けられた」と話します。
 現場の効率が上がれば、今後は、さまざまな個人の事情を抱えた人も現場監督を続けやすくなるでしょう。建築・土木事業の技術職の女性はもちろん、男性にも選択肢が増えます。
 「現場監督は経験の積み上げが重要なため、会社に残ってもらうことが大事。若手に活躍してもらうための施策を講じていたら、結果として離職率が下がった。社員の人生にとって、会社にいる時間を意味のあるものにしたい。そのためにできることを考えている」と河田さんは話します。多様性は目指すべきものというよりは、結果として実現するものであると捉えています。

 ポイント
 ・入社3年でやりがい感じられる教育 システム
 ・現場監督を中心に周辺のキャリアパ スも整備

 【加和太建設】三島市。建築・土木事業に加え、「世界が注目する元気なまち」をつくることを目的に道の駅伊豆ゲートウェイ函南などの施設運営や、シェアサイクル事業も手掛けている。従業員数318人。

 こくぼ・あきこ 経営学博士。県立大経営情報学部准教授(組織マネジメント)。企業や官公庁の組織開発プログラムやコンサルティングを手がける「ワークシフト研究所」所長。
 (国保祥子・県立大経営情報学部准教授)

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