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テーマ : 三島市

皆焼の刃文、きらめく沸 佐野美術館/相州広光「脇指 銘 相模国住人広光/康安二年十月日〈号 火車切〉」【コレクションから⑱】

 佐野美術館 相州広光 「脇指(わきざし) 銘(めい) 相模国住人広光(さがみのくにじゅうにんひろみつ)/康安二年十月日(こうあんにねんじゅうがつひ)〈号(ごう) 火車切(かしゃぎり)〉」 康安2(1362)年

表(上) 裏(下)
表(上) 裏(下)


 戦国時代に、越後の龍として名をはせた上杉謙信ゆかりの脇指である。「火車切」の号とともに上杉家に伝来した。
 号の由来は不明ながら、越後の寺院・雲洞庵には十世北高全祝[ほっこうぜんしゅく]が退治したという火車のミイラと、その返り血に染まった火車落としの袈裟[けさ]が伝わっている。火車は葬儀を襲い亡骸[なきがら]を奪っていくという妖怪。そして北高全祝は謙信はもとより、謙信の長年の宿敵であった武田信玄の禅の師でもあった高僧である。
 刀身の作者の広光は、南北朝時代に活躍した名工である。鎌倉幕府が置かれた相模国では、正宗に代表される多くの刀鍛冶が活躍した。広光は次代を担う相州鍛冶の頭領で、刀身全体に焼きが入る皆焼[ひたつら]の刃文を創始したと伝わる。
 本作は丁子[ちょうじ]や互[ぐ]の目を織り交ぜ、変化に富んだ皆焼の刃文に沸[にえ]がきらめいている。刀身表には不動明王を表す梵字[ぼんじ]とその持物である三鈷柄剣、裏には毘沙門天を表す梵字と護摩箸が彫られた入念作である。
 鎌倉時代の短刀から比べると身幅はより広く、茎はより短くなり、まさに南北朝期の姿を今に伝えている。完成度が高く、広光の代表作の一つに数えられる。可憐[かれん]な草花文の金具を用いた黒漆小サ刀拵[かたなこしらえ]が共に伝わっている。(志田理子・学芸グループ主任)

 メモ 三島市中田町1の43<電055(975)7278>
 「脇指 銘 相模国住人広光/康安二年十月日〈号 火車切〉」は、12月17日まで開催中の「日本刀の匠たち 特別展示 佐野美術館の名刀」で展示している。

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