あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 三島市

中国に「曙」もたらす 詩人・田原さん【しずおか連詩の会2023 私のはじめての詩集⑤完】

 「北島詩選」(1986年、新世紀出版社)=写真=は、現代中国を代表する詩人・小説家で現在は米国在住の北島[ベイダオ]さんの代表作を集めた。新世紀出版社は中国の出版社。北島さんは2000年の「しずおか連詩の会」に参加した。

「北島詩選」
「北島詩選」
田原さん
田原さん
「北島詩選」
田原さん

     ◇
 初めて詩集を丸々1冊読んだのが、この「北島詩選」でした。出たばかりの大学2年生の時。それまでも図書館閲覧室の文芸誌などで北島の詩を少し読んでいましたが、まとめて読むと、やはり強烈な衝撃を受けました。
 172ページで、中国語の本としては決して厚いとは言えません。しかし、その作品群にあふれる文学性と詩精神の重みは、どんな分厚い本よりも重かった。詩法と表現の斬新さ、詩句に潜む深みと広さは、これまで中国の現代詩にはないものでした。
 以前も触れたことがありますが、日本現代詩より30数年間遅れた中国現代詩には二つの始まりがあります。一つは1917年、アメリカに留学中の胡適が白話文で新体詩を書いた時です。それまでは中国で詩と言えば漢詩しかありませんでした。これは明治以前の日本と同じです。
 もう一つは文化大革命という文化の廃虚に立ち上げた朦朧[もうろう]詩の誕生。その中心的人物が北島でした。彼のおかげで讃歌[さんか]時代が葬られ、中国現代詩が新しい曙を迎えた。世界文学から取り残されてしまった中国現代詩は北島の存在によって世界各国に注目され、あっという間に数十カ国語に翻訳されたのです。
 北島初期の「回答」という詩にある「卑劣は卑劣者の通行証/高尚は高尚者の墓碑銘」は今も、時代を超え、時間と空間を貫いてわれわれの心の奥底に響いています。
 (教育文化部・マコーリー碧水、橋爪充が担当しました)

 でん・げん 1965年、中国河南省生まれ。90年代初めに来日し、文学博士号を取得。谷川俊太郎らの日本の詩作品を中国語に翻訳・出版。日本語での詩作も行い、2010年の第2詩集「石の記憶」で第60回H氏賞に選ばれた。

9~11日、三島で創作
 2023年の「しずおか連詩の会」(県文化財団など主催、静岡新聞社・静岡放送共催)は9~11日に三島市内で創作を行う。参加者は野村喜和夫さん(詩人・本紙読者文芸選者)、田原[でんげん]さん(詩人)、岡野大嗣さん(歌人)、文月悠光さん(詩人)、小野絵里華さん(詩人)。発表会は12日午後2時から同市民文化会館で。入場料は1000円。問い合わせはグランシップチケットセンター<電054(289)9000>へ。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

三島市の記事一覧

他の追っかけを読む