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テーマ : 三島市

どんな時も すっと入る【しずおか連詩の会2023 私のはじめての詩集④ 詩人・小野絵里華さん】 

 「カステーラのような明るい夜」(2021年、七月堂)は大正~昭和前期に活躍した詩人尾形亀之助(宮城県大河原町出身、1900~42年)の詩作を、亀之助に影響され詩を書き始めたという詩人西尾勝彦さんが編集した詩集。各詩の原典を確認した上で、旧仮名遣いを現代仮名遣いに改めて収録した。

「カステーラのような明るい夜」
「カステーラのような明るい夜」
小野絵里華さん
小野絵里華さん
「カステーラのような明るい夜」
小野絵里華さん

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 大学院で戦後日本文学の研究を進める中で、自分も住んでいた東京都世田谷区に居住経験のある尾形亀之助の存在を知りました。亀之助の詩は余白が多く、解釈の幅が大きいのが魅力の一つ。「カステーラのような明るい夜」は現代仮名遣いで読みやすく、詩の初心者にもお薦めの一冊です。
 収録されている詩「雨日」に「なんということもなく泣きたくさえなっていた」という一節があります。詩の中の亀之助は何もしない、ぼんやりと座って、ずっと物事を見ているだけの人です。そしてふと寂しくなる。夫婦が愛し合う幸せを描いても、どこかに悲しみがにじんでいる。例えるなら、水道からピトピト落ちる水の音を寂しく思う気持ち。個人ではなく世界の悲しみを書いているのだと思います。
 「夜がさみしい」という詩がありますが、なんてストレートなタイトルでしょうか。亀之助の詩からはおごり高ぶったものを感じません。うそをつかなさそうだな、こんな人だろうなと詩から人となりがなんとなく分かる気がします。
 日々の生活に疲れた人にも読んでほしいです。詩というものは自分の体調によって言葉がすんなり入ってきたり入ってこなかったり、変わるもの。でも亀之助の詩はどんな時でもすっと入ってきてくれます。その上で漠然とした寂しさに共感できる。刺さる人には刺さる、好きな人は好き。そんな詩が詰まっています。

 おの・えりか 詩人。東京都出身。2010年、「ユリイカ」の新人賞を受賞しデビュー。第一詩集「エリカについて」(左右社、2022年)で、第11回エルスール財団新人賞、第73回H氏賞を受賞。研究書に「1Q84スタディーズ」がある。
11月、三島で開催  2023年の「しずおか連詩の会」(県文化財団など主催、静岡新聞社・静岡放送共催)は11月9~11日に三島市内で創作を行う。参加者は野村喜和夫さん(詩人・本紙読者文芸選者)、田原[でんげん]さん(詩人)、岡野大嗣さん(歌人)、文月悠光さん(詩人)、小野絵里華さん(詩人)。発表会は12日午後2時から同市民文化会館で。入場料は1000円。問い合わせはグランシップチケットセンター<電054(289)9000>へ。

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