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テーマ : 三島市

「しずおか連詩の会 2023 in 三島」開催迫る

 2023年の「しずおか連詩の会」(静岡県文化財団、静岡県主催、静岡新聞社・静岡放送共催)が11月9~12日、三島市で開かれる。今年で24回目。5人の詩人と歌人がリレー形式で現代詩40編を創作し、最終日に三島市文化会館で発表する。18回目の参加となる詩人の野村喜和夫さん(本紙読者文芸選者)がさばき手(まとめ役)を務め、中国出身の詩人田原さん、共著に連詩作品を持つ歌人の岡野大嗣さん、中原中也賞最年少受賞者の詩人文月悠光さん、2023年のH氏賞に輝いた詩人の小野絵里華さんが言葉を紡ぐ。5人が抱負を寄せた。
5人で作り出す生命体 詩人 野村喜和夫さん
野村喜和夫さん
 今年は静岡県が東アジア文化都市ということで、中国出身のバイリンガル詩人田原さん(2010年に初参加)に再登場をお願いした。また、開催地三島市は、古今伝授発祥の地であることから、「うたのまち」として名乗りを上げている。そこで歌人にも参加していただこうと、昨年の木下龍也さんの盟友ともいうべき若き歌人、岡野大嗣さんに声をかけ、快諾を得た。現代詩からは、若手女性詩人の代表格文月悠光さんと、本年度H氏賞受賞者小野絵里華さん。私だけ高齢というアンバランス(?)な年齢構成となった。
 ともあれ、連詩というのはひとつの生命体であり、「往きて還らぬ」その不可逆性と、千変万化にさらされた言葉の運動の非予見性とを最大の特徴としている。今年の多彩な連衆がその生命体をどのように作り出していくのか、今からわくわくしている。

 のむら・きわお 1951年埼玉県生まれ。詩集に「風の配分」(高見順賞)、「ニューインスピレーション」(現代詩花椿賞)、「美しい人生」(大岡信賞)、評論に「移動と律動と眩暈と」(鮎川信夫賞)など。英訳選詩集「Spectacle&Pigsty」で2012BestTranslatedBookAwardinPoetry(USA)を受賞。
ポエジーの迷宮への道 詩人 田原さん
田原さん
 わたくしは今回、2回目の参加ですが、楽しみにしつつも、やはり緊張感がだんだん湧いてきます。1回目の連詩を思い出すと、そのときの集中と緊張がありありと浮かんできました。毎日充実して楽しかっただけでなく、そのような「集団創作」をした経験はわたくしにとって初めての試みで、今も新鮮で有意義だったと思っています。
 今回の連詩は、これまでの経験を生かして、もっと自分と他者を見つめ、遠方と未来を眺め、過去と歴史を振り返って、魂を解釈できるような、質感と完成度の高い言葉を求めていきたいと思います。
 連詩はある意味で、詩人にとってポエジーの迷宮にたどり着く細い道であり、定められた時間内に言葉と勝負することでもあります。加えて言えば、わたくしにとって、日本語を磨くチャンスであり、果たしてポエムを細部まで表現できるかという試練でもあります。

 でん・げん 1965年中国河南省生まれ。90年代初めに来日し、文学博士号を取得。谷川俊太郎らの日本の詩作品を中国語に翻訳・出版。日本語での詩作も行い、2010年の第2詩集「石の記憶」で第60回H氏賞に選ばれた。
一人では出せない表現 歌人 岡野大嗣さん
岡野大嗣さん
 そのときは全て第三者を介した進行で、創作中は、作品をやりとりする以外の会話はありませんでした。今思えばストイックな作法ですね。ただひとり歌人という立場で参加する今回は、同じ場所に集まって、顔を合わせて作ることができます。高校の部活の合宿みたいで、一言でいえば、とてもわくわくしています。互いに新たな一面を引き出し合える場になるよう頑張ります!

 おかの・だいじ 1980年生まれ。歌集に「うれしい近況」「音楽」「たやすみなさい」「サイレンと犀」、共著に谷川俊太郎、木下龍也との詩と短歌の連詩「今日は誰にも愛されたかった」など。2023年度NHK・Eテレ「NHK短歌」選者。
未知のものに触れる旅 詩人 文月悠光さん
文月悠光さん(撮影・長友善行)
 連詩に参加する大きな楽しみの一つは、詩人たちの執筆の様子を観察できることだ。通常の詩作は個人作業だが、この連詩の会では、全員が同じ空間で互いに向き合い、長い連詩の一部を書き継いでいく。詩が生まれる瞬間を目の当たりにするのだ。
 私にとって特に印象的だったのが、2018年の連詩の会で作家の古川日出男さんが披露された「ランニングスタイル」。立ったまま片足を後ろに引き、今にも紙の中へ走り込まんばかりの勢いで筆を躍らせ、詩行を書きつけた。詩人とはランナーだったのか。その速度と鮮やかさに驚かされた。
 3回目の参加となる今回は、どのような驚きと出会えるだろう。参加詩人たちの作品はかねてより拝読してきたが、連詩の場で、どのような言葉、スタイルが花開くかは未知数だ。書き手の私自身はもちろん、読み手にとっても、「何か未知のものに触れた」と思えるような、そんな連詩を見せてみたい。

 ふづき・ゆみ 1991年生まれ。第一詩集「適切な世界の適切ならざる私」で中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。新詩集「パラレルワールドのようなもの」(思潮社)が富田砕花賞受賞。武蔵野大学客員准教授。来年3月グランシップで開催の作曲家・坂東祐大の公演にも出演予定。
言葉の運動に飛び込む 詩人 小野絵里華さん
小野絵里華さん
 水泳、美術、走ること、書くこと。わたしは子供のころから一人でできるものが得意でした。うすうす気づいていましたが、大人になってどれほど社交性を身につけても、結局一人で行動しています。唖然[あぜん]とします。もちろん、詩を書くときも一人です。みんなが寝静まった夜に真っ白な画面に向かって、どこかからやってくる世界や言葉の手触りをたった一人で受けとめている、そんな感覚です。
 それでも今回、連詩の会にお誘いいただき、うれしくてすぐに承諾しました。連詩に参加した人たちがみな一様に興奮していて、楽しそうなのを知っていたからです。
 大岡信さんによると、連詩で相手に「合わせる」そのやり方にこそ、詩人の個性が発揮されるのだそうです。きっと、想像もしなかったようなところから詩がやってくるのでしょう。そんな言葉の運動の中に、思い切って飛び込んでみたいと思います。

 おの・えりか 東京都出身。2010年、「ユリイカ」の新人賞を受賞しデビュー。第一詩集「エリカについて」(左右社、2022年)で、第11回エルスール財団新人賞、第73回H氏賞を受賞。研究書に「1Q84スタディーズ」がある。
11月12日に発表会  完成作品を5人が朗読、解説する発表会は、11月12日午後2時から三島市文化会館で行う。入場料は全席自由1000円。
 問い合わせはグランシップ<電054(289)9000>へ。グランシップのウェブサイトなどからも購入できる。
 9~11日の創作期間中は静岡新聞教育文化部の公式X(旧ツイッター)を活用し詩40編を速報する。

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