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テーマ : 三島市

本質に触れ 心身軽く【しずおか連詩の会2023 私のはじめての詩集②詩人・文月悠光さん】

 「石垣りん詩集」(2015年、岩波書店)=写真=は、第2次大戦後の代表的な女性詩人石垣りんさん(1920~2004年)の詩作から、詩人伊藤比呂美さんが120編を選んだ。第一詩集「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」(1959年)など五つの詩集からの作品に加え、未発表詩や単行本未収録の詩も紹介している。  石垣さんの作品とは、中3か高1の頃に出会っています。すでに詩作を始めていました。入り口はこの「石垣りん詩集」にも収録された「シジミ」でした。台所に置いたシジミを夜中に見つめて「『夜が明けたら/ドレモコレモ/ミンナクッテヤル』/鬼ババの笑いを/私は笑った。」と書いている。当時の私は滑稽に感じていました。

石垣りん詩集
石垣りん詩集
文月悠光さん(撮影・長友善行)
文月悠光さん(撮影・長友善行)
石垣りん詩集
文月悠光さん(撮影・長友善行)

 大人になって、この詩の欺瞞[ぎまん]のなさに気づきました。「いとしい」「かわいそう」と思ってはいても、それを食らわなければ生きていけない。だから、鬼ババの顔を作ることにはうそがない。ごまかしがない。読む側にもそれを突きつける、怖い詩でもあったんです。
 生きていると、いろいろな肩書や名前がついてきて、自分の役割を必要以上に意識したり、自分を過剰に大きな存在として捉えたりします。でも、石垣さんの詩を読むと「結局、人間ってこんなもんなんだ」という本質的な所に回帰して、心と体が軽くなるような気持ちになります。
 代表作の「表札」はまさにそうした内容です。人は体一つで死んでいくもの。そのことをずっと見続けた方だったのでしょう。文学者として高く評価されても、そこは変わらなかった。作品の中に、常にそうした姿勢が見えるのがいい。余計な言葉がないんですね。平易な言葉選びでありながら、創作者としてのセンスが抜群に優れていると思います。
 (談)

 11月、三島で開催
 2023年の「しずおか連詩の会」(県文化財団など主催、静岡新聞社・静岡放送共催)は11月9~11日に三島市内で創作を行う。参加者は野村喜和夫さん(詩人・本紙読者文芸選者)、田原[でんげん]さん(詩人)、岡野大嗣さん(歌人)、文月悠光さん(詩人)、小野絵里華さん(詩人)。発表会は12日午後2時から同市民文化会館で。入場料は1000円。問い合わせはグランシップチケットセンター<電054(289)9000>へ。

 ふづき・ゆみ 1991年生まれ。第一詩集「適切な世界の適切ならざる私」で中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。新詩集「パラレルワールドのようなもの」(思潮社)が富田砕花賞受賞。武蔵野大学客員准教授。
 (写真は長友善行撮影)

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