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【時評】麻疹対策のワクチン 抗体獲得へ2回接種を(矢野邦夫/浜松医療センター感染症管理特別顧問兼浜松市感染症対策調整監)

矢野邦夫氏
矢野邦夫氏

 麻疹(はしか)が世界的に流行しており、国内でも感染者が報告されている。麻疹は感染力が極めて強く、治療薬がないことから、ワクチンの接種が重要である。
 ワクチンは2回の接種が必要である。どうして2回目を接種するのかといえば、麻疹ワクチンを1回接種すると、約95%の人が抗体を獲得し、2回目の接種によって99%が抗体を獲得するからだ。すなわち、1回目の接種では免疫を獲得できない少数の人々に免疫を与えるために2回目を接種するのである。
 「1回目の接種の後に抗体検査をしてから、抗体を獲得できない人に2回目を接種すればよいのではないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、そのような方法では費用も日数も要するため、抗体の有無に関係なく、2回目を接種する戦略がとられている。
 麻疹ワクチンを2回接種しても100%の人々が抗体を獲得できるわけではない。そのような人々はどうしたらよいのであろうか。米国疾病管理予防センターは2回接種していれば、抗体が不十分であっても「免疫のエビデンスあり」として取り扱う。
 ワクチンを2回接種しても十分な抗体を獲得できなかった人が麻疹に感染したという事例はある。ただし、発熱やせき、発疹がみられたとしても、そのような人から周囲に麻疹ウイルスが広がる危険性は低いことが知られている。ワクチン未接種の人の麻疹と比較して、2回接種された人の麻疹は感染力が低下しているからである。
 われわれが日常的に接種しているワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがある。生ワクチンには、弱毒化した生きたウイルスが含まれており、麻疹ワクチンや風疹ワクチンがその代表である。不活化ワクチンには百日咳や破傷風のワクチンなどがあり、生きたウイルスは含まれていない。
 生ワクチンによって得られた免疫は生涯続くので、一度免疫を獲得すればブースター接種は必要ない。しかし、不活化ワクチンでは、年月の経過とともに抗体価が低下するので、ブースター接種して抗体価を引き上げることがある。すなわち、生ワクチンである麻疹ワクチンの2回目は1回目で抗体を獲得できなかった人を麻疹から守るためであり、ブースター接種ではない。麻疹ワクチンは生涯で2回接種することが望ましい。未接種者は2回、1回接種者は1回の接種をしてほしい。
 (矢野邦夫/浜松医療センター感染症管理特別顧問兼浜松市感染症対策調整監)

 やの・くにお 1955年、名古屋市生まれ。名古屋大医学部卒。名古屋掖済会病院、名古屋大病院などを経て、米・フレッドハッチソンがん研究所に留学。93年から浜松医療センター勤務。感染症専門医・指導医。抗菌化学療法認定医・指導医。エイズ学会認定医・指導医。内科認定医。産業医。

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