テーマ : 医療・健康

ステージ4の衝撃【アラ還 2人の がん奮闘記⑤】

 弘美は退院から3日間わが家で休養し、自宅に帰った。年が明けて2022年1月、検査結果報告の連絡が来た。「ステージは4だって。切除した組織を検査したら、他にも転移が見つかったから。20日から抗がん剤治療が始まる」。淡々と語る電話の声。後に彼女は「あの時は妙に頭の中が静かで、病気のことを仕事先にばれずに切り抜けることだけ考えていた。ステージ4を認めたくなかった」と振り返った。

イラスト・ふじのきのみ
イラスト・ふじのきのみ

 治療はTC療法という一般的なもので、3週間に1回、6時間ほどかけて点滴を受ける。それを6回、5カ月間にわたって繰り返すという。2日後、弘美から切迫した声で電話がかかってきた。
 「一人で乗り切る自信がない。手伝ってほしい」。私は困惑した。だが、こうも思った。両親をみとり、一人っ子の私が病気になったら誰を頼る? 私は「了解。あすはわが身だよ。乗りかかった船だもんね」と言った。
 翌日から2人で、ネットや書籍、雑誌で抗がん剤の副作用対策を調べまくった。症状は脱毛、手足のしびれ、吐き気、発熱、倦怠[けんたい]感など。弘美は「指先がしびれて仕事ができなかったら死活問題だわ」と青ざめた。親の遺産でもない限り、「働くおひとり様」には経済的に頼る人がいない。「治療と仕事の両立」は必須なのだ。
 私が勤務していた新聞社は「治療と仕事の両立」のための制度はあるが“治療への配慮”と称して意に沿わない異動や「肩たたき」があった。逆に理解ある上司の下で治療を終えて職場復帰した人もいた。制度とは運用する人次第であり、たとえ制度があっても病気への理解には差がある。フリーランスの弘美が治療を隠すと決めたのは無理もない。
 集めた副作用対策の情報を基に、私は100円ショップで書類をめくる時に使うゴム製の指サックや輪ゴム、LLサイズのルームソックス、軍手などを買い込んだ。さて、これらをどう使うか。
 (藍田紗らら・ライター)

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