テーマ : 医療・健康

膵臓がん 検査キット登場 早期のダメージ捉える 検診への応用にも期待

 膵臓[すいぞう]がんは、がんの中でも早期発見が難しいことで知られる。膵臓のダメージに伴って現れる血液中の物質の変化を手掛かりに、早期の膵臓がんや膵臓がんのリスクを高める疾患を捉える新しい検査キット(体外診断用医薬品)が承認され、保険がきく検査として今年3月から臨床現場で使われ始めた。関係者は、がんの発見に役立つのに加えて、将来は発がんリスクの高い人を抽出することで、予防にもつながるのではないかと期待する。

臨床現場で使われ始めた膵臓がんの検査キット(東レ提供)
臨床現場で使われ始めた膵臓がんの検査キット(東レ提供)


 検査キットの開発は、がんの早期診断につながる指標「バイオマーカー」を研究する本田一文日本医大教授(がん分子予防学)の2012年、国立がん研究センター在籍時の発表がきっかけだ。
 本田さんらは、膵臓がんや膵臓がんのリスク疾患のある患者で、膵臓からの消化液によって分解される善玉コレステロール(HDL)の一種であるアポリポタンパク質を詳しく解析。分解過程で生じる二つの物質の比率が、健常者とは明らかに異なることを発見した。
 膵臓がんは症状がないまま進行することが多く早期発見が難しい。5年生存率は十数%で、厳しい経過をたどることが多い。簡便なバイオマーカーがあれば早期発見ができるのではないかと研究が始まった。

 従来より高感度
 キット開発については「東レ」、研究経費は日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受ける産官学連携で開発に着手。試作キットを使った臨床研究では、従来の膵臓がんマーカーに比べて感度(該当する人が陽性となる割合)と特異度(該当しない人が陰性になる割合)のいずれも良好で、既存のバイオマーカーと組み合わせるとステージ1の早期がんで60%以上、ステージ1と2の合計で70%以上の感度で見つけることができた。
 膵臓がんを多数診ている米国立がん研究所、ドイツ・ハイデルベルク大、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)なども検証し、同様の結果が得られた。
 22年に膵臓がんの補助診断薬として承認申請。昨年6月に承認を取得し、今年3月、実際にキットを使った検査が始まっている。

 高リスク群
 このバイオマーカーの特徴は「がんの存在そのものを示すのではなく、何らかの疾患で膵臓が弱っている、傷んでいる状態を反映する」(本田さん)ことだという。
 このため、早期の膵臓がんだけでなく、発症の前段階で膵臓がんになりやすい「高リスク群」とされる慢性膵炎、膵のう胞、膵管拡張、成人発症糖尿病なども発見できる可能性が高い。
 研究チームではこの検査キットを将来、がん検診にも応用することを目指し、研究中だ。
 現在のがん検診では費用対効果や被検者の負担の点から、画像診断によるスクリーニングを全員に施す検診は推奨されていない。もしもがん検診にこの検査が導入できれば、精密検査を受けるべき高リスクの人を効率よく見つけだし、死亡率を低減できる可能性があるという。
 本田さんらは既に全国の医療機関と共同で1万人以上に試薬による検査を受けてもらい、陽性になった人に画像検査による精密検査をすることで、発見に結び付くかどうかを解析中だ。数年以内には結果が出るという。
 本田さんは「対策型がん検診に採用されるためには、現状では死亡率の低下を示す必要があるが、膵臓がんなど症例数が少ないがんでは結論を得るのに時間がかかる。死亡率以外の評価基準も取り入れることを検討するべきだ」と話している。

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