テーマ : 医療・健康

マーモセット実験活用拡大 新潟大と富山大チーム 異種間の卵巣移植

 脳や神経の病気を研究する実験モデル動物として、小型の霊長類「コモンマーモセット」の活用が広がっている。マウスなどに比べて飼育や繁殖には経費や労力がかかるが、生理学的、解剖学的な特徴が人に似ているなどの利点がある。繁殖方法を簡便にして小規模な研究施設でも利用できるように、マーモセットの卵巣をマウスに移植して卵子のもとを採取し、効率的に受精卵(胚)を作る試みが進んでいる。
コモンマーモセット
 コモンマーモセットは体長20~30センチ、霊長類としては比較的小型で扱いやすい。妊娠期間が約5カ月と短く、一度に出産する子どもが2~4匹と繁殖効率が高いのも特長だ。野生では家族単位で生活し、さまざまな鳴き声でコミュニケーションをとる。マウスのような齧歯[げっし]類に比べて脳が発達しており、アルツハイマー病など脳や神経疾患の発病メカニズムや治療薬開発に向けた研究で需要が高まっている。
 人の病気を研究するには実験動物の遺伝子を改変し、異なる特徴を持つ個体を多数用意しなければならない。そのためには雌の卵子が数多く必要となる。現在の主流はマーモセットに卵子の発育を促すホルモンを繰り返し投与し、手術で採卵する方法。しかし、マーモセットの体の負担が大きい上、飼育に広い施設や多額の費用、労力を要するのが難点だという。
マウスの腎臓に移植したマーモセットの卵巣組織。卵子のもとになる卵母細胞(白い円形の像)が点在している体外受精後、胚盤胞にまで発生した受精卵(右)(写真はいずれも富山大提供)
 新潟大と富山大の研究チームは、実験や病気で死んだ雌のマーモセットの卵巣をマウスの腎臓に異種間移植し、卵子を採取することに成功した。マウスの体を利用して卵子を調達できれば、雌のマーモセットを数多く飼育する必要がなくなり、小規模な研究施設でも繁殖が容易になる。
 チームはマーモセットの卵巣を2~3ミリ角に切り分けた上、拒絶反応を起こさないように免疫機能を失わせた免疫不全マウスの腎臓被膜下に移植した。移植した卵巣が腎臓に十分根付いたと確認できたらマウスにホルモンを投与。卵子を包んで保護している卵胞を発育させ、卵子になる直前の卵母細胞を採取した。さらに取り出した卵母細胞を体外培養し、成熟させた後に体外受精すると、細胞分裂を繰り返して着床の前段階である胚盤胞まで発生させることができた。
 チームの笹岡俊邦・新潟大教授は「ウシやブタではマウスへの卵巣の移植で胚盤胞までできていたが、マーモセットでは移植後の卵巣内で卵母細胞が発達せず、卵子が採れずにいた。人に近い霊長類の異種間卵巣移植で胚盤胞までできたのは大きな成果だ」と意義を強調する。
異種間卵巣移植の流れ

 チームは今回の手法を使ってマーモセットの子どもの誕生を目指す。移植した卵巣内では卵胞が複数できている。これらを有効活用し、さらに多くの胚作製につなげることも課題だという。
 この方法が確立すれば遺伝子改変マーモセットの作製が容易になるだけでなく、人の生殖補助医療に応用できる可能性もある。笹岡教授は「がん治療の際、妊娠・出産を希望する女性が薬や放射線などの影響を防ぐため事前に卵巣を取り出すケースがある。卵巣の保存先として異種の動物を使うことも可能になるかもしれない」と話した。

 国際原則で適正に活用
 実験動物にはマウスやラットの他、ハムスターやウサギ、ミニブタ、アカゲザルなどが用いられている。特に遺伝子操作で特定遺伝子を欠損させたマウスは「ノックアウトマウス」と呼ばれ、遺伝子の持つ機能を推定するために欠かせない存在となっている。新薬開発では人への投与前に動物で実験し、効果や安全性が厳しく検証される。
 動物実験を適正に行うための国際原則として「3R原則」がある。可能な限り動物を使わない実験に置き換えること(Replacement)、使用動物の減少(Reduction)、動物の苦痛軽減(Refinement)-の三つが提唱されている。

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