テーマ : 医療・健康

話題の成分「短鎖脂肪酸」【未来は腸内細菌とともに⑫】

 大腸ではさまざまな腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を食べてエネルギーを得て、その過程で多様な代謝物質を生み出しています。今回はその中でも、特に健康に良い影響を与える物質として注目される「短鎖脂肪酸」を深掘りしましょう。

イラスト・やすだゆみ
イラスト・やすだゆみ

 短鎖脂肪酸が健康の維持増進に役立つ健康機能性を持つことは近年、多くの論文で報告されています。代表的なものに「酢酸」「プロピオン酸」「酪酸」があり、直接、あるいは受容体を介して身体に好影響を与えます。腸内細菌により作る短鎖脂肪酸は異なり、例えばビフィズス菌は主に「酢酸」を作ります。
 腸内で最も作られる酢酸は、腸管のバリアー機能を向上させて病原体が腸管で増えて下痢や腹痛を起こす腸管感染症を抑える働きや抗肥満などの効果があります。プロピオン酸には持久力向上や抗肥満効果、酪酸には腸管バリアー機能向上やアレルギー抑制効果などが報告されています。
 エネルギーを作り出すことにも大きく関わります。私たちが生きるために必要なエネルギーの約10%が、腸内フローラが発酵で作る短鎖脂肪酸に由来するとされます。
 このように、短鎖脂肪酸の働きは一言では言い表せないほど多岐にわたりますが、中でも今回は便通改善と免疫機能向上についてお話しします。
 短鎖脂肪酸は腸の内分泌細胞に作用し、精神を安定させるホルモンとして知られるセロトニンの産生を促し、腸の蠕動[ぜんどう]運動を活性化することで、排便をスムーズにすると報告されています。
 腸で作られたセロトニンが脳に作用して精神を安定させるかどうかはまだ解明されていません。ただ、同じホルモンでも脳で作られるか腸で作られるかでその役割は異なります。
 免疫機能については、短鎖脂肪酸が腸管の免疫細胞に作用して花粉症などのアレルギーや大腸炎を抑えたり、全身の粘膜で細菌やウイルス感染を防ぐ免疫グロブリンA(IgA)の量を増やしたり、質を改善したりすると報告されています。
 近年、花粉症の低年齢化が進んだり、新型コロナウイルスなどの新興感染症が猛威を振るったりしているため、短鎖脂肪酸による免疫機能の増強はより重要になると考えられます。
 あらゆる健康状態に密接に関係する短鎖脂肪酸が腸内で十分に作られているかを意識することは、健康維持や疾患予防にとても重要で、ヘルスケアの新たな指標になりつつあります。
 (福田真嗣・株式会社メタジェン社長)

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