テーマ : 医療・健康

生体・生活データで認知症選別 大分大など 有害タンパク質の蓄積予測

 アルツハイマー病の原因とされる有害タンパク質の脳への蓄積を予測して治療につなげようと、大分大とエーザイの研究チームがリストバンド型の生体センサーを使った機械学習モデルを開発した。認知症治療は早期受診が重要だが、検査施設が限られる上、費用も高額といった課題がある。センサーは自宅でも手軽に使えるため、チームは認知症になる可能性がある“予備軍”を探すスクリーニング検査として実用化を目指す考えだ。

アミロイドベータ蓄積を予測するためのリストバンド型生体センサー(大分大提供)
アミロイドベータ蓄積を予測するためのリストバンド型生体センサー(大分大提供)
脳の中にたまったアミロイドベータ(中央の二つの楕円{だえん}形部分、東京大薬学部提供)
脳の中にたまったアミロイドベータ(中央の二つの楕円{だえん}形部分、東京大薬学部提供)
健康な脳とアルツハイマー病の脳
健康な脳とアルツハイマー病の脳
アミロイドベータ蓄積を予測するためのリストバンド型生体センサー(大分大提供)
脳の中にたまったアミロイドベータ(中央の二つの楕円{だえん}形部分、東京大薬学部提供)
健康な脳とアルツハイマー病の脳

 アルツハイマー病は認知症全体の6~7割を占め、物忘れなどの症状から次第に日常生活に支障が出るようになる。「アミロイドベータ(β)」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積して神経細胞を傷つけ、脳の萎縮を招くことが原因と考えられている。
 チームは、2015年8月~19年9月に大分県臼杵市で65歳以上の高齢者に実施した疫学研究のデータを利用。記憶障害の自覚がある人や認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と診断された人計122人を対象に、3年間にわたって3カ月ごとに1週間ずつ手首に生体センサーを装着してもらった。さらにこの間、年に1回のアンケートによる問診と脳画像検査も実施した。
 センサーからは歩数や活動時間、睡眠、脈拍などの「生体データ」を、問診からは家族との同居や外出頻度、移動手段などの「生活データ」を収集。これに年齢や過去の病歴、飲酒歴などの当事者背景を組み合わせ、三つの機械学習技術を使ってアミロイドβ蓄積の予測モデルを作った。脳画像検査の結果と照合したところ、予測モデルはスクリーニングに適した性能と評価できたという。
 「これまでは認知機能の低下を予測する研究が多かったが、今後はアミロイドβを検出する重要性が高まっている」と大分大の木村成志准教授(神経内科)は強調する。
 背景には昨年、認知症の新薬「レカネマブ」が保険適用となり、販売が開始されたことがある。アミロイドβにくっついて除去する薬で、臨床試験(治験)で症状の進行を27%抑制する効果が認められた。
 現在、アミロイドβの蓄積を調べる方法には、陽電子放射断層撮影(PET)と脳脊髄液検査がある。しかしPETは実施できる施設が限られ検査費用も高額、脳脊髄液検査は腰に針を刺して採取するため患者の負担が大きい。木村さんは「認知症の指標となる血液中の物質(バイオマーカー)や生体センサーなど、代替の検出方法の確立が必要だ」と話す。
 チームは今後、ユーザーが自分で問診データを入力できるアプリを開発するため協力企業を募集する。「健康志向が高まると生体データは変化する。生活改善がアミロイドβの蓄積量にどう影響するのかを明らかにしたい。何を正せば蓄積を防げるのか。予測だけでなく、予防のためのアドバイスにもつなげるのが理想」と木村さん。
 大分大はレカネマブの投与施設だが、同県内には他に投与条件を満たす施設が少ない。また、地方都市は市街地を外れると交通手段が少なく、検査のために病院を受診することは簡単ではない。
 木村さんは「将来は生体センサーが手軽なスクリーニングとして利用され、受診のきっかけになってほしい」と期待する。

 高齢者 5人に1人が発症
 国内の認知症患者は2025年に約700万人まで増え、65歳以上の高齢者の5人に1人に達すると予測されている。
 その多くを占めるアルツハイマー病は、症状が現れる10~20年以上前にアミロイドベータ(β)が脳に蓄積し始め、軽度認知障害(MCI)を経て認知症となる。MCIの約半数は5年以内に認知症に移行すると言われ、早期の診断と治療開始が課題となっている。
 23年にMCIと軽度認知症を対象にした新薬レカネマブが承認されたほか、より高い効果を得るため、症状が出る前の段階でアミロイドβを取り除き、発症を遅らせることを狙った臨床試験(治験)も進んでいる。

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