テーマ : 医療・健康

立ったままCT 機能の衰え発見後押し 慶応大と民間企業開発

 コンピューター断層撮影(CT)の日本での普及は著しい。ベッドに寝て、大きなリングの中を行き来する検査を多くの人が経験したはずだ。ただ、健康寿命に関わる身体の機能異常は立ち姿でしか診断できないものも多い。立ったまま直接撮影できないか。慶応大とキヤノンメディカルシステムズ(栃木県大田原市)は、立ったまま、座ったままで使えるCTを共同開発し、有効性を確かめた。関係者は、機能の衰えを早期発見し、健康寿命の延長につなげられると期待する。

立位、座位で検査できるCT装置について解説する慶応大の陣崎雅弘教授=東京都港区の慶応大予防医療センター
立位、座位で検査できるCT装置について解説する慶応大の陣崎雅弘教授=東京都港区の慶応大予防医療センター
骨盤臓器脱のCT画像。従来のCT(左)では正常な位置にあるぼうこう(点線内)が、立って撮ると骨盤から垂れ下がっている(慶応大提供)
骨盤臓器脱のCT画像。従来のCT(左)では正常な位置にあるぼうこう(点線内)が、立って撮ると骨盤から垂れ下がっている(慶応大提供)
立位、座位で検査できるCT装置について解説する慶応大の陣崎雅弘教授=東京都港区の慶応大予防医療センター
骨盤臓器脱のCT画像。従来のCT(左)では正常な位置にあるぼうこう(点線内)が、立って撮ると骨盤から垂れ下がっている(慶応大提供)

 慶応大医学部の陣崎雅弘教授(放射線科)は、立ったときに症状が出る多くの疾患や、健康寿命に影響する項目についてもCT撮影が求められると考え、立位CTを発案。2012年、キヤノンメディカルシステムズ(当時は東芝メディカルシステムズ)に共同開発を呼びかけ、14年から開発プロジェクトが始まった。
技術的課題を解決  プロトタイプ(原型)は間もなくできたが、実用化までには、撮影のための装置を厳密に水平に保ったままで上下させる方法など、多くの技術的課題の解決に時間がかかった。被検者が撮影中にふらつかないようにするにはどうするかも問題だったが、支柱を立てて軽く背を当ててもらうだけで撮影に支障がなくなったという。
 完成したCTで患者を撮影したところ、得られる効果は多岐にわたっていた。
 まず、検査手順が大幅に簡略化される。横になって撮る従来のCTでは、医療者が検査室に付き添って被検者をベッドに寝かせ、位置を確認する必要があった。立位CTでは所定の位置に立ってもらうだけで撮影可能で、付き添いも要らず、靴を脱ぐ必要もない。
 検査にかかる時間は大幅に短縮され、さらに、被検者との「完全非接触・遠隔化」での撮影が可能なため、新型コロナウイルス感染症などが流行している状況でも、関係者間の感染リスクを回避できるメリットがある。
姿勢の違いを反映  陣崎さんら開発グループは、それぞれの病気や症状によって姿勢の違いがどのようにCT画像に反映するのか、実際の患者で調べてきた。
 その結果、腰痛や首の痛みなどの運動器疾患や、骨盤底筋の緩みにより子宮やぼうこう、直腸などが下がってしまう骨盤臓器脱、脊椎の隙間を通る神経が圧迫されて痛む脊椎すべり症などでその違いが明らかになり、前立腺肥大による排尿障害の病態評価にも有効だと分かった。
 このほか、立った状態では肺の容積が10%程度大きくなることや、静脈の内径が大幅に変化すること、骨盤内の臓器が従来の想定よりも下垂することなど、既存のCTやエックス線検査で分からなかった現象も判明し、診断にどう生かすかが研究課題となった。
 完成した立位CTは、慶応大病院の初号機、藤田医科大病院(愛知県豊明市)の2号機に続いて23年11月、会員制の人間ドックを運営する慶応大の予防医療センター(東京都港区)に配備された。陣崎さんは「検査を運動器などの疾患の予防につなげ、健康寿命を延ばしたい」と話す。
 例えば変形性膝関節症では、横たわったときと立ったときの違いで将来の発症、悪化リスクを予測し、回避策を取る。骨盤臓器脱が生じる前に、骨盤底筋を鍛えて緩みを改善する。骨格筋の量を把握して、将来のフレイル(虚弱)予防につなげる。これらが立位CTを使った人間ドックで可能になるという。

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