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自宅で「加熱式」 改正法施行4年 受動喫煙懸念 家庭内、近隣にも被害

 受動喫煙対策を強化した改正健康増進法の全面施行から丸4年。この間、喫煙率の減少傾向は続く一方、加熱式たばこが普及。最近の研究では加熱式は自宅での使用が目立つといい、受動喫煙による家庭内や近隣の健康被害が懸念されている。

▲東京都住宅供給公社の「禁煙マンション」敷地にある表示板。加熱式も対象に含むことが明記してある=東京都杉並区▼大阪府吹田市が作成した受動喫煙防止への配慮を求めるチラシ。加熱式も対象となることを明記している(同市提供)
▲東京都住宅供給公社の「禁煙マンション」敷地にある表示板。加熱式も対象に含むことが明記してある=東京都杉並区▼大阪府吹田市が作成した受動喫煙防止への配慮を求めるチラシ。加熱式も対象となることを明記している(同市提供)
▲東京都住宅供給公社の「禁煙マンション」敷地にある表示板。加熱式も対象に含むことが明記してある=東京都杉並区▼大阪府吹田市が作成した受動喫煙防止への配慮を求めるチラシ。加熱式も対象となることを明記している(同市提供)

 目がしばしばし、胸の痛みや動悸[どうき]がする-。兵庫県明石市の女性(57)は2021年夏以降、マンションの隣室に引っ越してきた男性のたばこによる、そんな受動喫煙の症状に悩まされてきた。
 ベランダで吸う紙巻きたばこの煙がリビングに侵入。管理組合理事を交えた話し合いで男性は共用の廊下で吸うことになった。だが22年秋、男性は廊下での喫煙をやめ、再び女性宅のリビングに臭いが漂うようになる。
 女性は同じく被害に遭っている世帯と共に、管理規約の使用細則で「近隣に受動喫煙被害を与えること」を禁止するよう管理組合に提案。自身と10代の長女の診断書や医師の意見書も示し、23年に提案通り認められた。
 ところが被害は続く。男性は「紙巻きを加熱式に変え、室内で吸っているので被害はないはず」などと主張。「配慮して吸っているのに文句を付け過ぎでは」と女性の側を非難する理事もいて、解決に至っていない。

 周囲に配慮?
 加熱式は紙巻きに比べ発がん性物質など一部の有害物質が少なく、紙巻きのような煙を出さない。それが自宅での喫煙による受動喫煙被害を拡大させているのではないかと尾谷仁美東京財団研究員(社会医学)はみる。
 「周囲に配慮し加熱式を使う人が多いようだ。しかし、一部の有害物質が少ないといっても、紙巻きの有害物質はそもそも多過ぎるのであって、加熱式の方が健康リスクは低いという証拠はない。受動喫煙の害もある」
 実際、加熱式使用者は自宅で吸う傾向が強いことが尾谷さんと田淵貴大医師(公衆衛生)の研究で最近明らかになった。
 23年、16~74歳の約3万人に対しインターネット調査を国内で実施。自宅で毎日喫煙する人の割合は、加熱式が52%、紙巻きが38%。加熱式だけを吸う人は紙巻きだけを吸う人に比べ自宅で吸う傾向が1・5倍強かった。両方を併用する人も自宅で吸う傾向がやや強かった。

 まず努力義務
 自宅を禁煙にしている人の割合は47%だった。これは世界的には低い数字だと尾谷さんは言う。
 スペインでは受動喫煙対策の強化により04~05年の調査で56%だったのが13~14年には73%に。南アフリカは63%(10年)、ポーランドは66%(19年)、米国は90%(18~19年)に達する。
 尾谷さんによると、米国の場合、家庭での受動喫煙の害を訴えるテレビCMや、18年に全ての公営住宅で喫煙を禁じる罰則付きの規則が施行されたことなどが功を奏しているとみられる。
 日本では家庭での受動喫煙対策がほぼ皆無だ。その中で大阪府吹田市は配慮を呼びかけるチラシを作成。東京都住宅供給公社は20年度から室内など専有部分も禁煙とする新築賃貸マンションの供給を始め、好評だという。
 尾谷さんは「米国のような対策が望ましいが、まずは集合住宅で室内を含めた禁煙を努力義務規定として導入することから始めてはどうか」と話している。

 

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