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【提言・減災】首都直下ガス 対策急務 長尾年恭/静岡県立大客員教授

 今年は関東大震災から100年という節目の年だった。この地震で旧陸軍被服廠[ひふくしょう]跡では3万8千人を超える犠牲が出たが、その主因は火災旋風の発生というのが定説である。ところが、この火災で東京市(当時)内のあちこちで洋釘などの鉄製品が溶解した。鉄の融点は1500度を超えており、木材では最高でも1200度程度までしか到達しない事から、なぜ鉄が溶けているのかは謎であった。

長尾年恭氏
長尾年恭氏

 近年、信州大学の榎本祐嗣名誉教授が南関東ガス田由来のメタン火焔[かえん]の噴出が火災旋風発生の大きな原因であったという激甚火災を裏付ける資料や証言を多数発見した。1855年の安政江戸地震は、発生が夜中だったため大地の割れ目から火が噴き出る様子が多数目撃されていた。さらに安政江戸地震のときに起きた同時多発火災の発生域と関東大震災の火災発生域はほぼ重っていた。これは、火災発生域の地下の浅いところに、南関東ガス田由来のメタンが存在していたと考えると合理的に説明できる。このメタンが地割れでできた新しい割れ目との相互作用で帯電・静電気着火して地表に火焔となって噴き出したと考えられる。
 2007年には渋谷で温泉施設の大規模な爆発事故が発生しているが、原因は南関東ガス田由来のメタンガスである事が明らかになっている。つまり東京の直下には大きな“火種”が存在しているのである。ちなみに地盤沈下を防止するため、東京都は1972年から天然ガス採取を全面停止し、揚水を規制している。そのため、東京駅の地下駅や、上野駅の新幹線駅などは、地下水位が上昇し駅筐体[きょうたい]が浮き上がるという問題が生じている。
 このことは地下水位の上昇だけでなく、メタンガスもかつてないほど蓄積されている事を意味している。ガス漏れの監視あるいはガス抜きの対策を今すぐ開始することは、首都直下地震での火災発生被害の低減につながると考えられる。問題なのは防災に携わる専門家の間に、この問題に対する危機意識がまったく無い事である。筆者は首都直下地震の被害を減らすためにもメタンガス対策の立案・実施が急務と考えている。

 ながお・としやす 県立大、東海大客員教授。国際測地学地球物理学連合「地震・火山に関する電磁現象WG」委員長。地震予知だけでなく富士山噴火予知研究もライフワークとする。68歳。

 ウオッチ3連動 想定震源域周辺のM3以上の地震活動(11月6日~19日)
 10日午前10時ごろ、神奈川県西部を震源とする地震が発生し、同県などで最大震度3、県内は東伊豆町、熱海市、伊豆の国市、伊豆市で震度1を観測した。気象庁によると震源の深さは105キロ、地震規模を示すマグニチュード(M)は4.2と推定される。12日午前2時24分ごろには東海道南方沖で深さ33キロ、M4.5の地震があり、伊豆諸島の神津島村(東京都)のほか、県内は東伊豆町、河津町、南伊豆町、伊豆市で震度1が観測された。富士山深部低周波地震は7回確認された。

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