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熱海土石流 白黒化、黒塗り… 静岡県の不適切な文書開示 山積する疑問 十分な調査せず【ニュースを追う】

 熱海市伊豆山で2021年7月に盛り土が崩落して28人が死亡した大規模土石流を巡り、静岡県の行政対応を記録した文書の不適切開示問題を本欄「ニュースを追う」で取り上げて半年。カラーの行政文書が白黒化されて一部が判読できなくなったり、開示されるべき情報が黒塗りされていたり、不適切な対応の実態が取材を通じて明らかになった。県の不自然な説明に次々と疑問点が浮かぶ一方、関係職員へのヒアリングなど文書白黒化の経緯を県は十分調査しておらず、都合の悪い情報を出し渋る県の姿勢は変わっていない。
 (社会部・大橋弘典)
県が当初開示した白黒文書(右)と元のカラー文書(左)。白黒化で、県に監督権限のあった乱開発の範囲や状況が分からなくなっていた
 「白黒問題は先ほど知事が一件落着にしたじゃないか。調査はおしまい。外部に対して(の説明)も、もうおしまいだ」―。県法務課の幹部職員が突然、取材を拒んだ。9月5日、川勝平太知事の会見が終わり、疑問点を追加取材するために県庁内の同課を訪ねた際の対応だった。幹部職員は文書開示と訴訟を担当する部署の責任者。記者が「しっかり説明してほしい」と要請しても聞く耳を持たなかった。
 この日の朝刊紙面で「県開示文書判読不能問題 職員 複写機設定変更認める」という記事を掲載。同日午後の知事定例記者会見で、記事の内容を踏まえて関係職員への事情聴取が不十分ではないかと質問したが、知事は論点をずらして答えず、今後の調査方針への言及も避けていた。

 ■不自然な対応
 2021年7月の土石流発生後、川勝平太知事は「あったことを全てありのまま事実公表する」「言い訳とか責任逃れとか一切なしに、あったこと通りをそのまま伝える」と表明していたのに、県の担当職員は開発業者への対応を記したカラーの行政文書を白黒化して開示。その結果、県に監督権限があった分水嶺(れい)の無許可開発への対応部分が文書で読み取れなくなり、第三者による検証からも漏れていた。
 この半年間、文書問題を取材してきたが、開示作業を担当した職員への聞き取りが不十分なまま幕引きを図ろうとするなど県の説明には不自然な点が多い。県は「機械的に作業した」と恣意性を否定しているが、判読できなくなった文書は分水嶺の無許可開発の関係など一部に限られる。
行政文書の不適切開示問題を巡る不自然な点(一部)
 ■存在しないのに?
 分水嶺の無許可開発への行政対応がこれまで注目されなかった背景には、開示文書の白黒化だけでなく不適切な黒塗り(文書の部分非開示)が影響した可能性も分かってきた。県は行政処分の際に公表済みだった無許可開発のエリアを示した行政文書を、なぜか黒塗りしていた。その理由を「開発業者の利益の保護」と説明するが、業者は既に解散して存在しない。
 県からは白黒文書問題の開示作業に関係した職員への質問を文書で提出するように求められた。質問を提出して1カ月たったが、いまだに回答はない。
知事、隠蔽否定も〝根拠〟変える 記者会見で説明する川勝平太知事=23日、県庁
 カラー行政文書の白黒化問題を巡っては、川勝平太知事が隠蔽(いんぺい)に当たらないと一貫して主張するが、その〝根拠〟に関する知事の説明は変節している。
 知事は当初、担当職員がカラーの文書だと認識せず白黒化は意図的でないという発言を繰り返してきた。6月27日の記者会見で「カラーの件については担当者も気が付いていなかった。指摘を受けて、すぐに本来の資料のまま提示した。だから、隠す意図はない」と述べ、9月5日の会見でも「(白黒化は)意図的にやったのでは全くない」と話していた。
 ところが、職員がカラーの文書と認識していたことが報道で明らかになると、同月22日の会見で「(カラーの文書に)すぐに差し替えた。どこが隠蔽に当たるのか」と差し替えれば問題ないという説明に変えた。
 ただ、この説明にも疑問が残る。県が文書を差し替えたのは本紙の指摘を受けたからで、自発的に差し替えたわけではない。複数の専門家は白黒化で文書が判読できなくなったことは「隠蔽に該当する」としている。
行政文書の白黒化に関する知事発言の一部

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