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進む旅館のDX化 就業管理、料理の残量確認、温泉の温度計測… 静岡県東部で導入の動き

 国内外から旅行客を受け入れる県東部の旅館で、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める動きが出ている。積極的な経営者の一人は「生産性向上にデジタルは必要不可欠」と強調。業務効率化により従業員満足度を高め、顧客の滞在価値の向上にもつなげている。

タブレットで機器の動作状況を記録する従業員=熱海市東海岸町の古屋旅館
タブレットで機器の動作状況を記録する従業員=熱海市東海岸町の古屋旅館
カメラの映像で館内の状況を確認するスタッフ=沼津市戸田のアワ西伊豆
カメラの映像で館内の状況を確認するスタッフ=沼津市戸田のアワ西伊豆
タブレットで機器の動作状況を記録する従業員=熱海市東海岸町の古屋旅館
カメラの映像で館内の状況を確認するスタッフ=沼津市戸田のアワ西伊豆


 1806年創業の古屋旅館(熱海市東海岸町)は予約受け付けをインターネット経由に統一し、紙に記入していた機器のメンテナンス履歴やスタッフとの面談内容をウェブで記録する。業務マニュアルの大半を動画にした。従業員の出退勤管理はアプリで行う。
 人手不足を受けて2018年ごろデジタル化に着手した。内田宗一郎社長は「これをやれば一気に良くなるというものはない。気づいたところからデジタルを導入し、小さな改善を重ねている」と話す。求人サイトで一連の取り組みをアピールする。女性従業員用の寮整備なども奏功し、新卒の応募はDX着手前の5倍を超える。
 22年開業のAWA NISHI-IZU(アワ西伊豆、沼津市戸田)は館内20カ所にカメラを取り付けた。フロントの従業員が映像を遠隔監視し、定期的なバイキング料理の残量確認などの作業が不要になった。温泉の温度や湯量を自動で計り、規定値を外れると知らせる仕組みも取り入れた。客室22室に対する従業員数は15人と、同規模で同サービスの旅館の半分以下という。
 直接的なサービス向上にもデジタルを役立てる。古屋旅館は、AIセンサーで感知した共用スペースの混み具合を、客がスマートフォンで確認できるシステムを導入。アワ西伊豆はヨガの動画を流すタブレットを備え、従来は講師を招かなければできなかったヨガ体験を客だけで可能にした。
 DXが遅れている業界だけに変革の余地は大きい。アワ西伊豆を運営する竹屋旅館(静岡市清水区)の竹内佑騎社長は、同じエリアの施設が協力すればデジタル化できる業務の範囲が広がると指摘。協業するコミュニティーづくりを目指す。業界団体の会合でDXをテーマに講演する予定の内田社長は「業界全体が従業員のためのデジタル化を進めて憧れの就職先にしたい」と言葉に力を込める。宿泊業 デジタル化遅れ
 宿泊業のDXは遅れている。独立行政法人情報処理推進機構発行のDX白書2023によると、宿泊業のDX取り組み企業の割合は20%未満。農業・林業や医療・福祉などと共に、最も割合が低い産業群に分類されている。宿泊施設の経営支援を手がけるリョケン(熱海市)の太田優子研究員は活用できるツールの少なさが一因と分析する。一方、民泊の活発化によりツールは増えているという。
 太田研究員はデジタル活用のポイントとして①目的の共有②誰でも使えるシステムの採用③削減ではなく新たな価値創出を目指す―を挙げる。過去に導入した「レガシーシステム」を手放せずにDXが遅れる事例もあると指摘。「技術の進歩は早い。決断が必要」と訴える。
 (東部総局・矢嶋宏行)

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