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帰郷し見えた自分の“役” SPAC「伊豆の踊子」出演・山崎皓司 「未来は明るいと伝えたい」

 来年2月まで県内各地で上演する県舞台芸術センター(SPAC)の「伊豆の踊子」で、一人旅をする青年を演じている山崎皓司。東京で舞台をメインに活動していたが、2019年秋に地元掛川市に戻り、SPACの舞台に立ちながら俳優活動の一環として農業や狩猟などに取り組んでいる。物やサービスの対価、自然環境、人とのつながり―。「自分自身が学び、子どもたちに未来は明るいものだと伝えたい。これが自分がすべき“役”だと思っている」

人が集えるように整えた場所にあずまやを建て「山崎城」と名付けた山崎皓司。「耕作放棄地を『城主』になったつもりで整備し、次の世代に引き継ぎたい」=掛川市
人が集えるように整えた場所にあずまやを建て「山崎城」と名付けた山崎皓司。「耕作放棄地を『城主』になったつもりで整備し、次の世代に引き継ぎたい」=掛川市


 俳優を目指し、多摩美術大への進学を機に上京。以降20年近く舞台俳優をしても、テレビや映画に出ていなければ周囲からは「役者の卵」と言われ続けた。ある時、時間をかけて完成する演劇での給料と、半日で撮影が終わったテレビコマーシャルの出演料の差に疑問を抱いたことをきっかけに、物やサービスの値段も気になるように。「一度自給自足に近い生活をして、仕事とお金の価値を自ら測ってみよう」と帰郷を決めた。
 荒れてイノシシのすみかになっていた親戚の土地を切り開いて果樹を植え、自然農法で野菜や米を育てた。狩猟免許を取り、わな猟でイノシシやシカを捕った。巣箱を手作りして養蜂も始めた。
 4年間で自分と家族が口にする物の多くを自給できるようになり、4千平方メートル以上の耕作放棄地を再生したが、自然環境に左右される生活は想定外の連続。基本的な作業は本やネットで調べられても、狩猟は地元の猟師に頭を下げて教えを請うことも多く、動画を見ながら作り始めた丸太の椅子ですら最後は地域の高齢者に手伝ってもらわなければ完成しなかった。「今は日本で何とか不自由のない生活を享受しているけれど、この環境を後世に残すにはどうしたらいいのか」。現代社会での自分の立ち位置も再認識した。
 最近反すうしている言葉がある。シェークスピアが書いた喜劇「お気に召すまま」の「この世は舞台、人は皆役者」というせりふ。出演中の「伊豆の―」にも登場する。「東京にいた頃は、俳優としての仕事内容や報酬が自分の価値だと思っていた」。しかし、掛川に戻ると、俳優だけでなく農家、猟師、息子、夫、地域のおじさんなどさまざまな役を担い、視野が広がった。「この世という舞台に自信を持って立てるようになってきた。しっかり生きている姿を実際の劇場の舞台で見せたい」
 (教育文化部・鈴木明芽)

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