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【2024注目予算】掛川市 空き家対策補助 片付け促し流通図る

 農機具小屋だったかつての面影はなかった。掛川市西之谷のパン工房「カフェアンジュ」。北海道室蘭市出身の店主浜田弘子さん(62)が2021年10月、空き家を改装して開業した。趣のある店構えと石窯で焼くこだわりのパンが評判を呼び、常連のくつろぎ空間になった。遠方から足を運ぶパン好きも多い。

空き家の農機具小屋を改装して開業したパン工房「カフェアンジュ」=掛川市西之谷
空き家の農機具小屋を改装して開業したパン工房「カフェアンジュ」=掛川市西之谷

 「石窯を設置できることが空き家選びの譲れない条件だった。自然も豊かで理想的。うまく運命を引き寄せられた」。浜田さんの満足度は高い。石窯の燃料に使うまきは常連が好意で間伐材を提供するなど地域とのつながりが育まれ、空き家は3年の間に人が集う交流拠点へと変わった。
 一方で、浜田さんのような成功事例は多くない。掛川市は24年度一般会計当初予算案に、空き家対策事業費2400万円を計上した。解体・撤去と片付けに補助金を給付する。耐震性に劣る空き家を減らすと同時に、片付けが進まず塩漬け状態になっている空き家を中古住宅として流通させる狙いがある。
 市は19年度までに実施した独自調査で、市内に約1500戸の一戸建て空き家があると推計する。NPO法人と連携して問題解決を図っているが、高齢化の進展で空き家の増加傾向は強まっている。市都市政策課の担当者は「これまでの取り組みだけでは追いつかない。空き家は倒壊危険や治安悪化など問題が多く、地区自体の価値も下げる。行政の関与が不可欠になっている」と説明する。
 記者の目 所有者への啓発必要
 空き家の解体や改修を支援する自治体は増えているが、片付けを促す補助制度は珍しい。残された家財を処分する手間がネックになり、価値のある建物が放置され続けてしまう実態がある。高齢化で死者数が増える「多死社会」を迎え、実効性のある対策が急務だ。
 市は新設の補助制度で、空き家所有者が自発的に空き家の管理や活用に動くことを期待している。効果を高めるためには積極的な啓発が欠かせない。親の死別などに伴う相続で意図せずに空き家所有者になり、家の片付けに悩む人は多い。終活支援と組み合わせて備えてもらう必要がある。
 中古物件の流通促進は地域活性化や移住・定住関連施策とも密接に結び付く。市は都市政策課内に専門の係を設置し、空き家対策を強化する構え。きめ細かな対応と将来予測には、詳細な調査に基づく現状把握が不可欠になる。
 (掛川支局・高林和徳)

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