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尾身氏「唯一絶対の正解ない」 合理性と納得のコロナ対策求め

 政府に新型コロナウイルス感染症対策を助言する専門家たちのリーダー役を務め、8月でその役割を退いた尾身茂・結核予防会理事長が22日までに共同通信のインタビューに応じ「新型コロナ対策は唯一絶対の正解がない。限られたデータで科学的に合理性があり、人々が納得する提言書を考えるのはそう簡単ではなかった」と3年半のコロナとの闘いを振り返った。

コロナ対応を振り返る尾身茂・結核予防会理事長
コロナ対応を振り返る尾身茂・結核予防会理事長

 これまでに公表した提言は100を超え、時には政府の見解と異なる主張もあった。2021年夏の東京五輪で観客を入れる方針の政府に対し、無観客での開催を提言した際が「最も覚悟が必要だった」という。
 夏休みやお盆と重なり感染者が増える時期。「オリンピックの開催時に医療逼迫など大変な状況になるのは分かっていた。政府が煙たがるから何も言わないのでは責任が果たせるのか、歴史の審判に堪えられるのかという思いがあった」
 医療崩壊を防ぐため、緊急事態宣言などの強い行動制限も助言した。ただその一方で、飲食業や宿泊業に影響し、国内総生産(GDP)の低迷や失業率の上昇を招いた。「感染を抑えようとすると社会経済への影響が確かにあった。なるべく影響を抑えようとかなり早い段階で軌道修正の議論を始めていた」と語る。
 こうした議論は20年2月以降、毎週日曜や平日夜に開かれた専門家たちの自主的な勉強会で繰り広げられた。「未知のウイルスで誰も全体像は知らない。専門領域、価値観に基づいてざっくばらんに話してもらうしかなかった。膨大な時間を費やした」
 100以上の提言の裏で専門家たちが直面した困難や悩みを25日発売の書籍「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」にまとめた。印税は全て感染症の結核対策に充てる予定。
 「この危機に関わったものたちとして、どんな提言をいかなる根拠で出したか、どんな困難に直面したかを記録に残すことがわれわれの最後の役割だ。最善は尽くしたが完璧とは思っていない。本当に適切だったかどうか検証してもらいたい」

 【尾身 茂氏(おみ・しげる)】1949年、東京都生まれ。78年、自治医大卒(1期生)。90年代から世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局で感染症対策に当たり、2003年に中国などで重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際には事務局長を務めた。20~23年、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務め、22年から結核予防会理事長。

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