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テーマ : 磐田市

都市風景の情緒 鉛筆で再生 美術家・鎌田和直さん(磐田市)【表現者たち】

 ニューヨークの高層ビル、にぎやかなショーウインドー。美術家鎌田和直さん(56)=磐田市=は、100年前の欧米の街角を捉えた写真を基に、精緻な鉛筆画を創作する。ビルを見上げているような、ガラス越しに商品を眺めているような。鑑賞する側は、時間や空間を超えて大都市の光景に引き込まれる。

「黒色に深みのあるカーボン鉛筆は、100年前の風景と相性が良い」と語る鎌田和直さん。ひと月に1枚のペースで仕上げる=静岡市内(写真部・久保田竜平)
「黒色に深みのあるカーボン鉛筆は、100年前の風景と相性が良い」と語る鎌田和直さん。ひと月に1枚のペースで仕上げる=静岡市内(写真部・久保田竜平)
流氷の立体感、フェリーが着岸する冬の港を丁寧に描きだす
流氷の立体感、フェリーが着岸する冬の港を丁寧に描きだす
「黒色に深みのあるカーボン鉛筆は、100年前の風景と相性が良い」と語る鎌田和直さん。ひと月に1枚のペースで仕上げる=静岡市内(写真部・久保田竜平)
流氷の立体感、フェリーが着岸する冬の港を丁寧に描きだす

 12Bから10Hまで、20種以上の鉛筆を使って質感や密度を描き分ける。B系は濃密さや温かさ、H系は硬さ。そして消しゴムは「単に黒を消すのではなく、光を与えることができる」。蒸気機関車(SL)の煙、シスターの物憂げな表情、空の雲行き。気配や空気感もモノクロで伝える。
 鎌田さんは20代後半から、はままつ美術研究所(浜松市中央区)に通い、現代アートに傾倒。銀箔[ぎんぱく]や硫黄などを素材に抽象的な立体作品を発表してきた。
 転機は2020年、カーボン鉛筆との出合い。「鉛筆の黒といえば、鈍い銀色が反射するイメージだが、木炭のような深みのある色が出せる」。変色が気になっていたジャズの古いレコードジャケットを鉛筆で忠実に再現すると、周囲の反響が大きかった。
 創作の素材として古写真を選ぶ理由は、「若い頃にのめり込んだコンセプチュアルアート(概念芸術)や、既存のイメージを取り入れるシミュレーショニズムなど当時の美術動向の影響が強い」という。
 「100年前の都市風景は、建物や風俗にその時代特有の情緒が感じられる」。人々はどのような生活を送っていたのだろう。流氷が流れ着く港の寒さはどれほどだろう。模写ではなく、モチーフをずらしたり左右対称にさせたりして、「別の文脈に置き直す。演出家のように」と例える。
 「その感覚は錯覚か幻影かもしれない。無意識の奥へ、鉛筆だけが可能な表現を模索したい」と筆先に集中する。
 (教育文化部・岡本妙)

 鎌田さんの鉛筆画展「Mono-remix 100年前のニューヨーク・パリ・ロンドン」は2月1~13日、浜松市中央区の書繪堂[しょかいどう]ギャラリーで開かれる。

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