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テーマ : 磐田市

【終章】遺したもの㊦ 家族の今 歩生誇りに 感謝と決意【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 寺田歩生[あゆみ]さんの闘病を支えた家族は、歩生さんの存在を感じながら日々を生きている。長女侑加さん(27)=磐田市=は、市内の福祉施設で働く傍ら、社会福祉士の資格取得を目指している。歩生さんの東京での治療に付き添った際に滞在した施設「ペアレンツハウス」での出来事が大きい。がん患者だけでなく、家族にも心を配るソーシャルワーカーのプロ意識に感銘を受けた。

中学の時からの友人に囲まれポーズを取る磐田北高時代の歩生さん(中央)=友人提供
中学の時からの友人に囲まれポーズを取る磐田北高時代の歩生さん(中央)=友人提供
寺田歩生さんの在りし日をしのぶ姉侑加さん=20日、磐田市内
寺田歩生さんの在りし日をしのぶ姉侑加さん=20日、磐田市内
中学の時からの友人に囲まれポーズを取る磐田北高時代の歩生さん(中央)=友人提供
寺田歩生さんの在りし日をしのぶ姉侑加さん=20日、磐田市内

 「患者の家族、特に幼いきょうだいのケアの大事さを知った」。そんな思いから、がん患者のきょうだいを支援する活動に関わりたいとの夢を抱く。
 病状悪化で片足を失いながらも、高校に通った歩生さん。最期の日、ベッドの下にテスト勉強用のプリントが1枚落ちているのを見つけた。2年生の2学期中間テスト最終日だった。
 「本当にテストを受ける気でいたと思う。死ぬ前に好きな事だけして過ごせれば幸せかと問われれば、歩生は『別にそんなことない』と答えると思う」
 「勉強して学生でいることこそが、歩生の“JK(女子高生)”でいる幸せだったのではないか」。いつも明るく、意志が強い七つ下の妹を誇りに思っている。
 小学生の頃、歩生さんが慕っていつも追いかけていた次女季世さん(24)は、神経難病の患者を対象にした県内の医療機関で理学療法士として働いている。理学療法士は歩生さんが病気になる前から目指していた仕事だったが、難病患者の施設を職場に選んだのは、妹を支えた経験が影響しているという。
 父武彦さん(56)は、三人娘の末っ子のことを思い出しては涙している。「パパ、また泣いてる」。妻や娘たちから、からかいも受ける。「歩生と関わった方々には感謝でいっぱい。学校には満足に通えなかったが、留年したおかげで友達は倍いて、青春と呼べる思い出ができたのではないか」。時間がたち、少し客観的に見られるようになった。「病気になったり、学校に行けなかったりしても下を向くことなく、夢や希望に向かって挑戦してほしい」と療養を余儀なくされている若い人々にエールを送る。
 寺田家では、歩生さんが病気になる前から、困っている家族がいたらみんなで助けよう、1人だけ泣くことはナシだよ、ということをモットーにしていた。その通り、全員で一番小さな存在を支えた。母有希子さん(54)の悲しみは深いが、これからも家族で支え合っていくのだろう。心配はない。皆の心の中には、どんな逆境もはね返した歩生が生きているのだから。
 (社会部・武田愛一郎が担当しました)

 メモ 寺田歩生さんの友人たちは、それぞれの道を歩んでいる。中学が一緒で大阪府内の大学に進学した秋田莉沙さん(20)は2月、オランダに留学した。コミュニケーション学を学び、各国の人々と交流している。中学と高校が同じ高橋愛梨さん(20)は作業療法士を目指し、大学で勉学に励む。同じく中高を共に過ごした伝野伶菜さん(20)は、看護師を夢見て看護学校に通う。2度目の1年生の時の同級生杉田沙穂さん(19)は結婚し1児の母、増井由貴さん(19)は地元の団体職員になった。歩生さんの母有希子さんは「若い命、人生を大切に生きてほしい。陰ながら応援している」と話す。

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