古今を併せ 彫る手を信じ 創作版画家・佐野せいじさん(磐田市)【表現者たち】
江戸時代に栄えた浮世絵版画は原画を描く絵師[えし]、版木に刻む彫師[ほりし]、色刷りをする摺師[すりし]の職人3者がそれぞれの技術を凝らす分業制の芸術作品だった。対して現代の創作版画は全工程を一人で担う。磐田市の創作版画家佐野せいじさん(64)は「何かを創り上げる職人の仕事ぶりに魅了された」と話す。
若い時から創作で身を立てたいと思っていた。10代で地元磐田市を離れ、京都市北区でギャラリーを開く木版画家井堂雅夫さん(1945~2016年)の下で学んだ。「江戸時代までは静岡も木版画が盛んだったが、明治以降下火に。現代で木版画を習得しようと思ったら外に出る必要があった」と佐野さんは振り返る。
静かな制作環境を求めて40代半ばで遠州に戻り、以来創作版画の発表を続ける。題材は主に京都、洛北の自然と伝統的な家屋が共存する風景。定期的に現地に入り景色を記憶に納める。そのまま切り取るのではなく、脳内でまとまったイメージを作品に投影する。現在は県内各地に広がる草木や花々などの自然の美にも注目している。
京都の魅力は「文化を伝えようとする意地がある」ところ。特に山々に囲まれた中で神社仏閣が立ち並ぶ洛北エリアは、古い町並みが多く残り豊かな自然と合わさって版画にすると映えるという。
「古い物と新しい物を組み合わせる」ことを旨とするが、伝統的な木版画の技法も守り続ける。道具、材料を選び抜く一方で、原画を描く作業にパソコンを導入。どの色が最適かを探る。
約40年の創作歴は自身の仕事のやり方にも変化を与えた。かつては下絵を緻密に描き込み、線に忠実に彫っていたが、現在は、時に彫りの手に委ねる。「最後に良い作品になっていればそれで良い」。版画の極意をそう捉えた。
(教育文化部・マコーリー碧水)
日本の原風景を描いた佐野さんの創作版画新旧20点が並ぶ「第15回佐野せいじ木版画展」は22日から静岡市葵区鷹匠の亀山画廊で開催。3月4日まで。