あなたの静岡新聞
▶ 新聞購読者向けサービス「静岡新聞DIGITAL」のご案内
あなたの静岡新聞とは?
有料プラン

テーマ : 磐田市

【第3章】ついの別れ㊤ 前夜のテスト勉強 学ぶ意欲 命尽きるまで【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 「明日の物理、嫌だなぁ。分かんないんだよね」。静岡県立磐田北高2年の寺田歩生[あゆみ]さんは、母有希子さん(54)にこぼした。2021年10月11日、2学期の中間テスト初日を終え、自宅で一息ついていた。「いいよ、できるところまでやれば。投げ出しちゃうのはやめようね」

寺田歩生さんが使用していた机やノートパソコン=16日、磐田市
寺田歩生さんが使用していた机やノートパソコン=16日、磐田市

 「じゃあ、頑張るか」
 母に励まされて気持ちを切り替え、再び自室の机に向かった。
 歩生さんは、会話はできたものの、2年生になり日常生活に介助を必要とするほど、体力が低下した。肺機能が著しく下がり、自宅で酸素吸入した。食事の量が極端に減り、高カロリー輸液を投与した。「いつ何があっても不思議ではない」(有希子さん)状態だった。そんな中で、遠隔授業や定期テストを受けた。
 定期テストは、歩生さんが2度目の1年生の時、遠隔授業の導入と同時に自宅や病院で受けられるようになった。学校側が担当教員や県教委と協議し、他の生徒との公平性が保てるよう細かく手順を定めた。2年生2学期の中間テストも自宅で受けた。
 定期テストに並々ならぬ思いを寄せた歩生さん。体に強い痛みがあるにもかかわらず、頭がぼんやりする副作用を嫌がり、痛み止めの薬を減らしたがった。「点数が悪くなるから嫌」。往診していた磐田在宅医療クリニックの福本和彦院長(50)は、そう言われたことを覚えている。
 中間テスト2日目の12日は現代文B、基礎物理、保育だった。苦手意識があった物理は、満足できる結果が残せなかったようだ。「失敗した」とつぶやき、肩を落とした。「終わったことは仕方ないから、切り替えて明日頑張りなさい」。母は声をかけた。
 歩生さんには全ての教科を受けたいという強い思いがあったに違いない。しかし、翌日の最終日、受けることはかなわなかった。
 「数学のプリント送って」―。歩生さんは最終日の前日、スマートフォンから友人に「LINE(ライン)」で依頼し、送信してもらった。深夜、長女侑加さん(27)が仕事から帰宅すると、他の家族は寝静まる中、歩生さんの部屋は明かりがともっていた。
 「まだ勉強してるの? 早く寝なよ」
 「もう寝る。でもやばいからもうちょっと」
 姉妹は短い会話を交わした。
      ◇
 寺田歩生さんは2021年10月13日、帰らぬ人となった。3日間行われた2学期中間テストの最終日だった。卒業を目指し、命が尽きるその瞬間まで勉学に励んだ。最後の3日間を中心に「別れの時」を描く。
 メモ 寺田歩生さんが自宅などで受ける定期テストの問題用紙は毎朝、家族が学校に取りに行った。学校は各教科ごとに封をして手渡した。テストの時間や時間割は、校内で他の生徒が受けるテストと同じになるよう合わせた。家では家族、病院では看護師が試験監督を務めた。当時教頭だった県立磐田北高の河西伸之副校長(53)は「歩生さんの家族と築いてきた信頼関係があり、問題が漏れるというような心配はなかった。歩生さんの頑張りに応えたいという思いが強かった」と振り返る。

いい茶0
▶ 追っかけ通知メールを受信する

磐田市の記事一覧

他の追っかけを読む