ねこおどり【猫踊り】渡辺敬彦/本当の事ってなぁに?【SPAC俳優 言葉をひらいて㉔】
「猫踊り」という芝居を作りました。俳優としてではなく演出を担当しました。函南町に伝わる民話「猫踊り」を、親子で楽しめる30分のお芝居に、という函南町立図書館からSPACへの依頼でした。
![ねこおどり【猫踊り】](/news/images/n141/1408339/IP240124TAN900002000_O.jpg)
元のお話は1分半で読めてしまいます。せっかちな人なら1分かかりません。村の男が夜道を歩いていると竹やぶの中から奇妙な話し声が聞こえてくる。どうやら猫たちが踊りの稽古をしていて、その中には自分の飼い猫もいるらしい。家に帰ると飼い猫はもうそこにいて男はびっくり。男は飼い猫に「化け猫は嫌だ。家から出てってくれ」と頼む。猫は出て行く―。おしまい。というお話です。これだけです。
これを30分のお芝居にする? どうしよう、と頭を抱えました。
これは「苦しい喜び」です。演劇を作るのはいつも「苦しい喜び」なんです。男が感じた「猫が話す。踊る。笛を吹く」って本当の事? それとも気のせい? やっぱり飼い猫は化け猫で、出て行ったのは猫の忖度[そんたく]? 気まぐれ? 本当はどうなの? 私には分かりません。
でも本当の事って何でしょう?
きっと本当の事は…、真実は…、答えは…、一つで、私たちはそこに向かっているのだと思います。今はその途中でいろいろな真実や答えがあるのです。それは生きている事の楽しさです。「苦しい喜び」です。
科学も宗教も哲学も数学も、それぞれの答えはいつか最後に同じ答え、一つの真実になるのだと思います。私たちは今そこに向かっている途中で「苦しい喜び」を生きているのです。
子供たちが喜んでくれる芝居を作ろうと思いました。子供たちはお化けや不思議が大好きです。でもたぶん大人たちの方がもっと楽しんでくれるお芝居ができました…とさ。おしまい。