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【第2章】学校の防災③ 登下校時に津波の恐れ どこに避難? 家族と決めて【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 南海トラフ地震が起きれば、多くの小中学校体育館が避難所になる。空調やトイレなどの設備は十分か。南海トラフ地震臨時情報が発表された場合、学校活動は休止するのか。第2章では自主防災会会長の東海駿河さん(71)やその家族と共に、学校の防災課題を点検していく。
東海さん わたしの避難計画
 ある平日の午後。小学1年の東海竜洋君(7)は学校を終えて自宅へ歩いていると、地面の揺れを感じた。「地震かな」。立ち止まっていると防災行政無線の放送が流れた。「津波注意報が発表されました。海岸付近の方は注意してください」
 「えっ、どこに逃げればいいの。あっ、そうだ!」。学校も自宅も津波浸水想定区域内にある竜洋君は、ランドセルに入れてあった「避難カード」を思い出した。校外にいて地震が起き、「家族と一緒の時」「登下校中の時」「自宅にいて親がいない時」を想定して家族と決めておいた避難先を記入するカードだ。一番下に太字で「学校の近くにいる時は学校に行くこと」と印刷されている。竜洋君が急いで校内に戻ると、教員が児童に説明していた。「大丈夫、津波注意報で予想される津波は最大1メートルだから。学校はもっと高いし海岸から1キロ以上離れている。少し様子を見よう」
 教員はスマートフォンで情報を収集。三重県沖でマグニチュード(M)6・4の地震があり、太平洋沿岸に津波注意報が発表されていた。三重県では最大震度4で、観測された津波は0・5メートル程度。注意報は解除され、竜洋君は帰宅した。
 母の三保さん(34)が保育園児の妹かのちゃん(5)を連れて帰宅すると、竜洋君を抱きしめて言った。「よかった、大きな津波が来なくて。緊急地震速報が流れた時は『南海トラフ地震かも』とパニックになりそうだったわ」。竜洋君は教員から聞いた話を語った。「3階建ての校舎の屋上は地上10メートル以上あるから、学校に避難すればきっと大丈夫だよ。僕たちの家から5分のところには津波避難ビルもあるしね。『登下校中は近い方に逃げる』って避難カードに書いてあるよ」
 竜洋君は先日、県が普及を進める「わたしの避難計画」を家族で作ったことをしっかり覚えていた。自宅付近の津波到達時間は地震発生10~15分後、浸水深は最大5メートルで時間的余裕は乏しい。帰宅した父の遠州さん(36)は津波ハザードマップを広げ、三保さんと話し合った。今回は津波注意報だったが、1~3メートルの津波が予想される津波警報、3メートルを超えると見込まれる大津波警報だったら―。
 「会社から10~15分で家には戻って来られないな」と遠州さん。三保さんは「私のパート先は近所だけど避難場所はやっぱり竜洋の学校かな。日中はかのも保育園だし、4人とも別の場所に避難する場合もありそうね」とため息をついた。一家は次の週末、自宅から行ける何カ所かの避難場所までの移動時間を実際に歩いて確かめることにした。
明日へのメモ
 危機管理マニュアル 各校作成
 竜洋君の祖父・駿河さんは津波浸水想定区域外の自治会で自主防災会会長を務めている。津波注意報発令を受けて竜洋君や近隣の学校のことが気になり、県教委に津波防災の態勢について尋ねた。
 県教委によると2021年度現在、県内の公立学校で津波浸水想定区域にあるのは16幼稚園・こども園、41小学校、18中学校、11高校、8特別支援学校など計95校・園。このうち91校・園が津波を想定した危機管理マニュアルを作成し、避難訓練を実施している。同マニュアルでは「児童生徒の在校時」「校外学習時」「登下校中」などの状況別に、避難場所、各教員の役割分担や最終判断の責任者などを定めている。
津波浸水想定区域では校舎最上階や屋上を避難場所とする学校も少なくない=沼津市の第三小
 例えば沼津市の第三小は津波浸水深が1~2メートルで、在校中に大地震が起きた時は校舎4階の空き教室か屋上への避難を基本とする。周囲に高台はなく、校外への避難は想定していない。学校自体が津波避難ビルに指定され、校舎に外付け階段も設置されていて、住民の避難も受け入れる想定だ。全校児童による津波避難訓練は4月と9月、目標時間を設定して行っている。
 高橋信一教頭は「今の児童は東日本大震災を知らないので、命を守る訓練であることを強調している。地域の防災訓練への参加率を高めようと、今年から参加証を配り始めた」と言い、児童の意識向上に取り組む。

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